インターバル 法律に明記 残業上限、調整大詰め

 経団連と連合が交渉中の残業時間の上限規制に関する労使合意案がわかった。退社から出社まで一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」の普及に向けて企業が努力するよう、法律に明記する。経団連と連合が「月100時間」で大筋合意している繁忙期の残業時間の上限をめぐっては、細部で溝が残っており、大詰めの調整を続けている。

 

 労使合意案のポイント

  • 勤務間インターバル制度を努力義務化
  • 労使は上限時間までの残業時間設定回避へ努力
  • 労使でパワハラ防止などを目的とした検討の場設置
  • メンタルヘルス対策など過労防止策強化

(2017.3.10 日本経済新聞

残業時間の上限規制に関する論議が大詰めを迎えています。当初は繁忙期の残業時間の上限を月100時間とする案に強硬に反対していた連合も、大筋では合意に達し、バーターとしてインターバル制度の努力義務化などの提案があったようです。

これは全体としては良い方向に向かっていると言えるでしょう。長時間労働の是正そのものについては、いまや労使ともにその必要性は感じています。にもかかわらず100時間以下か未満かなどの細部にこだわって議論が停滞するのは労使双方が望むところではないでしょう。

インターバル制度のほか、パワハラ防止やメンタルヘルス対策を合意案に盛り込んだ点も評価できるところです。人材不足の昨今、パワハラやメンタル不調で限られた人材を失うことは企業にとって死活問題です。最近のヤマト運輸の例をあげるまでもなく、お客様と同じように社員を大事にする時代は既に来ています。

不当解雇の金銭解決制度 導入へ方向性見えず 厚労省、原案を提示

 裁判で不当とされた解雇の金銭解決制度の導入を巡る有識者会議の議論が、打開の糸口を見いだせないでいる。厚生労働省が制度の原案を示した3日の会議でも方向性は見えないまま。解雇を助長するとして連合は反対姿勢を崩さず、経済界も積極的に実現をめざす動きは今のところ乏しい。

 裁判で不当な解雇と認められた場合、解雇された人が望めば職場復帰を諦める代わりに会社から補償金を受け取れるようにするのが「不当解雇の金銭解決」だ。

(2017.3.8 日本経済新聞

不当解雇の金銭解決は、EU諸国など海外ではすでに制度化されています。日本でも10年以上前から検討されていますが、解雇を助長するなどとして連合が強固に反対する姿勢を崩さないまま、制度導入まで至らない状況です。

先日厚生労働省の示した原案では、従来のあっせん・労働審判・地位確認訴訟に加えて、労働者が職場復帰ではなく金銭救済を希望する場合に、地位確認にこだわらない金銭的解決という、新しい選択肢を設けようというものです。なお、地位確認訴訟とは、労働者が解雇無効を訴えて職場復帰を求める訴訟です。

解雇によって労使紛争にまで至っている場合には、多かれ少なかれ会社と労働者との間に感情的な対立が生まれているのが通常です。そのような場合に職場復帰にこだわるのは労使ともにあまりメリットがなく、初めから金銭的解決という選択肢が増えるのは会社側にとってもメリットがあるのではないでしょうか。

ITの進展等に伴い産業構造の変化は今後加速度を増すことが予想されます。一方、労働力人口は大幅な減少が見込まれており、限られた労働力を社会的ニーズの高い産業へ集中させるためには、柔軟な労働移動が可能な環境が求められます。解雇の金銭解決はその一助となるものであり、労組が主張するようなデメリットばかりの制度ではないはずです。今後の議論によってより良い制度ができることが期待されます。

労基署業務を民間委託 立ち入り検査 規制改革会議が検討

 政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大教授)は、長時間労働などの監視を強めるため、企業に立ち入り検査する労働基準監督署の業務の一部の民間委託を検討する。各地の労基署は人手不足で監督の目が行き届いていないとの指摘がある。委託先は社会保険労務士を想定、主要国に比べて見劣りする監視体制を強化して働き方改革を後押しする。(中略)

 政府は年内にも労働基準法を改正し、企業の残業時間の上限を「月平均60時間」として違反企業には罰則を科す方針。監督官不足が足かせになりかねないため、社労士を活用して監視体制を強め、働き方改革の進展につなげる。

(2017.3.7 日本経済新聞

労働基準監督官の絶対数が不足していることは以前から指摘されていました。全国の事業場数は約430万と言われていますが、これに対して監督官は約4千人。単純平均で1人あたり1,000社以上を担当しなければいけないので、当然全ての事業場に手が回るはずがなく、監督の実施率は3~4%にとどまっています。

この監督官不足を社労士の活用で補うというのが、今日のニュースです。我々社労士にとってはビジネスチャンスなのかもしれませんが、公益的な観点による考察も必要になるでしょう。監督担当が社労士と知れば、企業側が手心を加えるよう求めたりしないでしょうか。また、監督を担当する社労士の知識・経験が浅い場合に、企業の違法行為を見抜くことができるのでしょうか。実際の監督業務がどのように運用されるのか、今後の議論が注目されるところです。

 

ヤマト、未払い残業代支給 7.6万人調査へ 数百億円規模か

 ヤマトホールディングス(HD)がグループ会社の約7万6000人の社員を対象にサービス残業の実態を調べ、未払い分を支給する方針を固めたことが4日分かった。人手不足でサービス残業が常態化しているとみられ、支払総額は数百億円に上る可能性もある。過去の未払い分を精算したうえで、抜本的な働き方改革に取り組む。(中略)

 ヤマト運輸では主にトラック運転手に配備している携帯端末の電源が入っている時間を計り、運転手から自己申告される休憩時間を差し引いて労働時間を計算している。電源を切ったまま営業所内で荷物の仕分け作業をしたり、忙しくて休憩が取れなくても休んだとしたりすることがある。

(2017.3.4 日本経済新聞

このところヤマト運輸に関するニュースが続いていますね。先日は労働組合が宅配便の荷受量の抑制を求めた記事を取り上げましたが、

ヤマト、宅配総量抑制へ 人手不足、労使で交渉 - 流浪の社労士ブログ

本日は未払い残業代支給のニュースです。

記事によれば、ヤマト運輸ではドライバーの携帯端末の電源がオンになっている時間から、自己申告の休憩時間を差し引いて労働時間を把握しているとのこと。労基署等の調査においては、特に労働者からサービス残業の訴えがあったようなケースでは、このような労働時間把握方法は、実際の勤務時間との乖離がないかを詳しく調べられます。そして、管理監督者の現認等がなく自己申告に任せている場合は、実際の勤務時間と乖離していることが多いのも事実です。

ヤマト運輸も、まずは未払い残業代を精算して身綺麗にしてから総量規制に着手する、といったところでしょうか。総量規制の過程では昼、夜の時間帯指定配達の見直しなど、一部サービスの廃止も検討されているようですので、働き方改革の波はサービス重視で物流業界の盟主となったヤマト運輸にも着実に押し寄せているようです。

 

全社員に在宅勤務制度 富士通、3.5万人対象 回数制限なし

 富士通は28日、自宅などオフィス以外でIT(情報技術)を使って仕事ができる「テレワーク制度」を4月に導入すると発表した。本体の全社員3万5000人が対象。上司の許可があれば何回でも利用できる。国内では最大規模の導入となり、働き方改革が企業の間で一段と広がってきた。

(2017.2.28 日本経済新聞) 

このところ働き方改革関連の報道が連日続いていますが、今日は富士通が本体の全社員3万5000人を対象にテレワークを導入するというニュースです。今朝の日経の紙面には富士通のテレワークを推進するPCやタブレットの広告も出ており、自社の働き方改革をショーケースとして製品をPRする狙いもありそうです。

テレワークは、従来のオフィスにとらわれない働き方で、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務があります。多様な働き方の一環で、育児・介護などの事情で従来型のオフィスワークが困難な労働者にも活用が可能な新しい働き方として注目されています。

ITを活用したテレワーク導入を、まずはIT製品メーカー自らが実践するという試み。働き方改革は法改正を待たずに民間からじわじわと広がりつつあるようです。

 

セブンのバイト欠勤に罰金契約 容疑の経営者書類送検

 愛知県警は23日、名古屋市北区のコンビニ大手セブンイレブン加盟店で、アルバイトが急に欠勤すると罰金を支払わせる契約を結んだとして、中国籍の夫婦で経営者の男(37)と店長の女(37)=いずれも同市中村区=を労働基準法(賠償予定の禁止)違反の疑いで書類送検した。

 労基法は、働けないことを理由とする違約金や損害賠償を支払わせる契約を禁止している。北署によると、2人は「急にバイトが休むと、自分たちが穴埋めをしなければいけない。自由な時間が欲しかった」と供述し、容疑を認めている。

 送検容疑は昨年9~12月、10~30代のバイト男女5人に「急に欠勤した場合は1回1万円の罰金を徴収する」との契約を結ばせた疑い。

(2017.2.24 日本経済新聞

先日も武蔵野市内のセブンイレブン加盟店が、病気でアルバイトを休んだ女子高校生にペナルティを課していたことがニュースになりました。代わりに働く人を探さなかったらペナルティ、というのはコンビニ業界ではある程度暗黙のルールになっているのでしょうか。

今日のニュースは、「急に欠勤した場合は1回1万円の罰金を徴収する」との契約を結ばせたことが悪質と見られたのか、書類送検にまで至っています。なお、このような行為は賠償予定の禁止を定めた労基法16条違反になります。(「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額の予定をする契約をしてはならない。」)

経営者の方から「欠勤をしたら罰金〇万円というルールにしたい」というご相談を受けることが時々あります。しかし、欠勤によって不就労となった時間の賃金カット以上の罰金をあらかじめ予定することは、上記の賠償予定の禁止に抵触します。さらに無断欠勤のような労働者に落ち度があるようなケースでなく、病欠のような場合にまで罰金を課すことは懲戒権の乱用とみなされる可能性が高いでしょう。

人手不足のいま、欠勤や遅刻に過敏になる経営者の気持ちも分からなくはありませんが、 法令違反があればすぐにSNS等で情報が拡散し、ますます人手不足を招くという負のスパイラルに陥ってしまいます。これまではとかく軽視されがちだった労働法令ですが、遵守して当然の時代が既にやってきています。

ヤマト、宅配総量抑制へ 人手不足、労使で交渉

 ヤマト運輸労働組合が2017年の春季労使交渉で初めて宅配便の荷受量の抑制を求めたことが22日、わかった。人手不足とインターネット通販の市場拡大による物流危機で長時間労働が常態化。「現在の人員体制では限界」として、要求に盛り込み、会社側も応じる方向だ。深刻なドライバー不足を背景に、広がるネット通販を支えてきた「即日配送」などの物流サービスにきしみが生じている。(中略)

 宅配便急増のきっかけはアマゾン・ドット・コムなど大手ネット通販企業の登場だ。アマゾンが会員制サービスを始めた2007年度の日本全体の宅配便取扱個数は06年度比1割伸び、初めて30億個を突破した。その後も拡大し続け、15年度は37億個に達した。

 日本の物流危機が深刻化した要因には、再配達などを当たり前に求める消費者意識もある。荷主や運送会社、消費者が現状に対する認識を共有し、改善策を見いださなければ、宅配サービスの瓦解も現実味を帯びる。

(2017.2.23 日本経済新聞

アマゾンなどのネット通販の普及で宅配便の取扱数は増加の一途で、トラック運転手には人手不足が生じています。運転職の有効求人倍率は2倍を超えており、人員確保が難しい状況です。記事によれば、組合の総量抑制の要求に会社側も応じる方向とのことですので、再配達や時間帯指定など、ドライバーの労働負荷を高めるサービスが見直しの対象になる可能性もありそうです。

宅配便最大手のヤマト運輸の方向転換は、我々利用者にも大きな影響がありそうですが、これまでの過剰とも言えるサービスは、ドライバーの過重労働に支えられていた現実を考えれば、多少のサービス低下は甘受しなければいけないのかもしれません。

先日、「携帯の販売店 営業時間短く」というテーマで、過剰サービスの廃止は今後のトレンドになるかもしれない、と書いたばかりですが、

携帯の販売店 営業時間短く - 流浪の社労士ブログ

さっそくその流れを受けたニュースが飛び込んできました。ここにも働き方改革の影響が表れていますね。