未払い残業代支払いへ エイベックス、数億円規模

 エイベックス・グループ・ホールディングスは未払いになっていた数億円規模の残業代を5月に支払うことを決めた。グループ従業員1500人の勤務状況を昨年6月から今年1月までの期間で調査したところ、支給すべき残業代を払っていないケースが発覚した

 問題を受け、今年6月から裁量労働制などを導入し、従業員が柔軟な働き方を選べるようにする。

 未払い残業代は2017年3月期の決算に計上する。今年2月以降に発生した未払いについても、必要に応じて支払う。同社は昨年12月、労働基準監督署から未払いの残業代があるとして是正勧告を受けていた。

 エイベックスでは実労働に関係なく事前に決めた時間を働いたとみなす裁量労働制や、労働者が一定の時間帯で働きやすい時間に働けるフレックスタイム制を導入する。

(2017.5.2 日本経済新聞

記事によれば、これからフレックスや裁量労働制を導入するとのことですので、企業規模を考えればずさんな時間管理と言わざるを得ません。昨年12月に労基署の是正勧告を受けるまでさしたる危機感も持たずに残業代を払わずにきたのでしょう。

昨年以降長時間労働に対しては、労基署はかなり厳しくなっているのは周知のとおりで、是正勧告を受けてから社内調査をした場合、未払い残業代の規模は経営者が思った以上に膨らんでいることがほとんどです。事前に法令に適合した制度に変更しておけば、一時的な費用は掛かりますが、未払い残業代と比べれば微々たる金額で済みます。

長時間労働に依存した企業経営は過去のものになりつつあります。どの業界であっても、きちんと時間管理をしなければ、後から高い代償を支払わされるリスクがあると言えるでしょう。

東本願寺で残業代未払い 僧侶2人に660万円

 真宗大谷派(本山・東本願寺京都市下京区)が非正規雇用で勤務していた男性僧侶2人から未払いの残業代の支払いを求められ、2013年11月~今年3月までの計約660万円を支払っていたことが26日、分かった。

 2人は全国の門徒が泊まりがけで奉仕のために訪れる東本願寺境内の研修施設の世話係。13年4月から勤務し、今年3月末に雇い止めになった。早朝出勤、深夜退勤もあり、時間外労働は多い月で計130時間に上っていた。

 きょうとユニオン(同市南区)が15年11月から団体交渉を実施。未払いだけでなく、大谷派が労働時間を把握していなかったことや、職員組合と残業代を支払わないという違法な覚書を1973年に交わしていたことが分かった。世話係に対し、40年以上残業代を支払っていなかった可能性があるという。大谷派は「信仰と仕事の両面を考慮して法令順守に努めていきたい」とコメントした。

(2017.4.27 日本経済新聞

寺社の労務管理については、2016年4月、世界遺産仁和寺の宿坊の料理長の男性が、長時間労働により精神疾患を発症したとして、未払賃金の支払いを求めた訴訟で、京都地裁が約4200万円の支払いを命じる判決がありました。精神疾患の発症前年には1年間の勤務日数が356日に及ぶなど、仁和寺のずさんな労働時間管理が明らかになりました。

今日は同じ京都の寺社である東本願寺の賃金不払いのニュースです。記事によれば、1973年に組合と残業代を支払わないという覚書を交わして以降、40年以上残業代を支払っていなかった可能性があるというのですから、初めから残業時間を管理する気もなく、一般企業であれば極めて悪質な案件です。

寺社仏閣は修行の場であり、一般の労働者とは違う意識で雇用していたのかもしれませんが、賃金を払って労働を提供してもらう以上、労基法の適用が及ぶ「労働者」に該当します。文字通り釈迦に説法かもしれませんが、そもそも仏教は弱者救済の宗教のはずで、賃金不払いなど仏の道に反する行為ではないのでしょうか。

日本人はすでに先進国イチの怠け者で、おまけに労働生産性も最低な件

 「働きすぎは悪」「仕事よりコンプライアンス」――日本全体がそんな方向に進んでいる。しかし、本当にそれでいいのか。誰も頑張らないし踏ん張らない、そんな国に未来があるのか。

 モーレツがそんなに悪いのか?

 興味深い数字がある。『データブック国際労働比較2016』を見ると、'14年の週労働時間(製造業)で日本人はG7(先進7ヵ国)の中で労働時間がかなり短いほうなのだ。

 厚生労働省が調べた日本の週労働時間(製造業)は37.7時間。調査対象に各国でバラツキがあるため、一概には言えないが、米国の42時間や英国の41.4時間、ドイツの40時間より少なく、フランスの37.8時間、カナダの37.1時間と変わらない水準なのである。

 日本人がどんどん働かなくなっている。

 バブル直後には2000時間を超えていた年間の総実労働時間は少なくなり続け、'14年には1729時間にまで減少している(OECD調べ)。

(中略)

 かつての日本人たちが寝食を忘れて働いた末に今の日本の繁栄がある。それにあぐらをかいて、「これからは一生懸命働かないようにしよう」などと言っていれば、あっというまに三流国に転落する。

 政府の言うことに踊らされて、やれプレミアムフライデーだ、ノー残業デーだなどと浮かれる前にやるべきことがある。

 働かざる者食うべからず。

 この言葉を忘れると、日本人の末路は本当に哀れなものになるだろう。

(「週刊現代」2017年4月29日号より)

これはまた時代錯誤な記事ですね。。。1つずつ中身を検証してみましょう。

まず「データブック国際労働比較2016」の週労働時間のデータを用いて、「日本人はG7の中で労働時間がかなり短い」と主張しています。それでは、同じ「データブック国際労働比較2016」から年間の労働時間をみてみましょう。2014年の日本の平均年間総実労働時間は1,729時間。アメリカは1,789時間と日本より長いですが、フランスは1,473時間、ドイツは1,371時間と日本より遥かに短いのです。

長期休暇が制度化されているEU諸国に比べて、日本は有給休暇の取得率が5割未満ですから、年間の労働日数がそもそも違います。その差を無視して、1週間の労働時間だけを取り上げて「日本の労働時間はドイツより少なく、フランスと変わらない水準」などと主張することには、悪意すら感じます。

さらに「バブル直後には2,000時間を超えていた年間の総実労働時間は少なくなり続け、'14年には1,729時間にまで減少している」とのデータを取り上げて「日本人がどんどん働かなくなっている」と主張しています。確かに、毎月勤労統計調査の年間総実労働時間をみると、パートタイムを含む労働者では1993年の1,920時間から2015年の1,734時間まで減少していますが、パートタイムを除いた一般労働者では、1993年の2,045時間から2015年の2,026時間とほぼ横ばいです。

バブル以降、1人当たりの平均年間労働時間が減少したのは、短時間労働を行うパートタイム労働者の比率が増えたことが主な原因ということは、労務管理に携わる者の間では常識です。年間総実労働時間の減少というデータは、①格差拡大を助長する非正規比率の増加、②改善されない正社員の長時間労働体質という2つの問題をはらんでいるにもかかわらず、それを「日本人がどんどん働かなくなっている」との主張に用いるとは呆れるばかりです。

日本にはいまだに長時間労働信仰が根強く残っているんですね。記事には「かつての日本人たちが寝食を忘れて働いた末に今の日本の繁栄がある」と書いてありますが、そのような働き方こそが少子化の原因であり、50年後、日本の人口は約3割減るものと見込まれています。寝食を忘れ、家庭を犠牲にして働くことはむしろ亡国への道です。日本企業の経営者や管理職からこのような時代錯誤の意識が一掃されない限り、日本の長時間労働体質はいつまでたっても変わらないのでしょう。 

青学、3.7億円支払いへ 一時金減額訴訟 教職員と和解

 青山学院大などを運営する学校法人「青山学院」(東京都渋谷区)の教職員313人が、ボーナスに当たる一時金を一方的に減額されたとして、総額約3億7千万円の支払いを求めていた訴訟は、青山学院が全額を支払うとの和解が東京地裁(吉田徹裁判長)で成立した。20日付。

 原告を支援する教職員組合によると、一時金の支給額は就業規則に月数で明記されていたが、青山学院は2013年、財政難を理由に規定の削除と減額を組合に提案。合意がないまま規定を削除し、14年夏以降の一時金を減額した。

 和解条項では、青山学院が約3億7千万円の支払いに加え、18年夏まで減額前の水準を維持すると約束。その後は労使交渉で決めるとしている。

(2017.4.23 日本経済新聞

いわゆる「不利益変更」の案件ですね。労働契約法10条で不利益変更について以下のように定めています。

「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(以下略)」

記事によれば、青山学院では一時金(賞与)の支給額を月数で明記していたとのことですので、よくある「夏〇ヵ月・冬〇ヵ月」のような支給基準を就業規則に具体的に書いていたのでしょう。

われわれ社労士が作成する就業規則にはまずこのような文言を明記することはなく、「会社は、会社の業績、社員の査定結果等を考慮して、賞与を支給するものとする。ただし、会社の業績状況等により支給しないことができる。」など、支給額を具体的に書くことはありません。例えば「夏は基本給2ヵ月分・冬は基本給2ヵ月分」と就業規則に書いてしまうと、業績悪化でキャッシュが不足している時でも明示した金額の賞与を支払わなければいけないからです。

青山学院はかつて就業規則を作成した時に具体的な月数を明記してしまったものの、やはりリスクが大きいため、業績連動型に変更したかったのでしょうね。しかし、組合の合意がないまま賞与に係る規定を削除したため、紛争に至ってしまいました。和解条項では組合の請求額の全額を支払うとのことですので、青山学院側の実質敗訴です。

業績が良かった時に作成した就業規則や給与規程を改定したいというご相談は、私も時折受けることがあります。しかし、不利益変更を行うときは、時間と手間を惜しまずに変更について労働者代表や組合の理解が得られるよう、経営者側が誠意を尽くすべきだと思います。今日の記事は、強引に不利益変更をしても結局後で高いツケを払わされるという典型例でしょう。

電通社長を任意聴取 厚労省 違法残業、捜査終結へ

 新入女性社員が過労自殺した電通を巡る捜査で、厚生労働省は20日、同社の山本敏博社長から任意で聴取した。名古屋など3支社で労使協定の上限を超える違法な残業を社員にさせていた疑いがあると判断。来週にも法人としての電通と、3支社の幹部を労働基準法違反の疑いで書類送検する方針を固めた。昨年11月から始まった電通を巡る一連の捜査は、終結する見通しとなった。

(2017.4.21 日本経済新聞

電通の新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)が2015年12月25日に自殺をしたのは、直前に残業時間が大幅に増えたのが原因だとして、三田労働基準監督署が労災認定をした事件は、社会に大きな衝撃を与えました。

東京労働局などは2016年10月、電通の東京本社と3支社に対して任意の立ち入り調査を行った結果、複数の部署で労使協定の上限を超える違法残業の疑いが浮上。11月に強制捜査に切り替え、押収した勤務関連の資料を分析したところ、社員の出入りを記録する入退館記録と会社への申告が大幅に食い違う事実が判明しました。そして12月28日には、社員に違法な残業をさせていたとして、労働基準法違反の疑いで法人としての電通と高橋さんの当時の上司を書類送検する事態に至りました。

電通過労自殺者を出したのは今回が初めてではありません。1991年8月には、入社2年目の男性が長時間労働が原因でうつ病にかかり、自殺をしています。遺族である両親が電通に対して損害賠償を請求した訴訟で、最高裁は、長時間労働によるうつ病の発症、うつ病罹患の結果としての自殺という一連の連鎖が認められる、と判断しました。この判決は、長時間労働と従業員の過労自殺に因果関係を認めた初の最高裁判決となりました(その後の差戻審において、最終的には、会社が約1億6,800万円を支払うとの内容で和解が成立)。

世界屈指の大手広告会社によって繰り返された過労自殺事件は、皮肉にも今般の働き方改革を推進する大きな契機となりました。電通は1度目の過労自殺の際に、長時間労働体質を改めると表明していたにもかかわらず、その後もサービス残業が常態化するなど、組織的に違法行為を継続していた疑いがあり、今回の書類送検もやむなしと言えるでしょう。

いなげや社員 労災認定 労基署「長時間労働で過労死」

 首都圏が地盤の食品スーパー、いなげやの男性社員(当時42)が脳梗塞で死亡したのは長時間労働が原因だとして、さいたま労働基準監督署さいたま市)が昨年6月、過労死として労災認定していたことが17日、分かった。

 都内で記者会見した代理人弁護士によると、男性は2011年11月から同社の志木柏町店(埼玉県志木市)で勤務。14年6月に店舗を出た直後に倒れ、脳梗塞で亡くなった。

 同労基署は脳梗塞発症前の4カ月間の時間外労働が1カ月当たり平均75時間53分だったと推定。ほかにも労働時間と推定される時間があり、労災認定の目安である1カ月当たり80時間を超える時間外労働をしていた可能性が高いと判断。昨年6月28日付で労災認定した。

(2017.4.18 日本経済新聞

いわゆる過労死ラインは、①発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合、あるいは②発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合をいいます。

記事によれば、脳梗塞発症前の4カ月間の時間外労働は平均75時間53分とのことですので過労死ラインは下回っていますが、ほかにも労働時間と推定される時間があったために労災認定とのことです。きちんと勤怠管理をしている会社でも、社員に長時間労働をさせれば、万が一の際には労災認定される可能性があるという実例です。

男性は始業時刻前の出社についてタイムカードを打刻していなかったり、終業後もサービス残業していたとのことですが、仮に社員が自発的にそのような働き方をしていたとしても、いまや会社の管理責任が問われてしまいます。小売業・飲食業はパート・アルバイト社員が多いため、少ない正社員に業務が集中しやすいと言われますが、長時間労働に依存した事業モデルはもはや成立しない時代になっています。

待機児童ゼロ先送り 19年度末に、働く女性増で

 厚生労働省が検討している待機児童解消に向けた新計画の原案が15日、明らかになった。女性の就業者数が想定以上に増えていることなどから施設の供給が追いつかず、2017年度末としていた待機児童ゼロの達成時期を19年度末まで延ばす。22年度までに女性の就業率が80%に上昇しても待機児童を解消できるよう保育の受け皿整備をめざす。

(2017.4.16 日本経済新聞

ここ数年で、保育の定員枠は増えていますが、待機児童数はほとんど減っていません。これは認可保育所に入園できないために育児休業を延長しているケースなどが待機児童に含まれないなど、それまでカウントされなかった潜在的な待機児童が顕在化したことが原因と考えられています。つまり、待機児童は表に出ている数字以上に深刻な問題ということです。

そもそも待機児童問題は女性の社会参加を阻むものとして、待機児童ゼロの早期実現は少子高齢化対策の中でも優先的な政策であったはずです。それにもかかわらず、女性の就業者数の増加で待機児童が増加とはまさに本末転倒です。

待機児童問題は20年も前から認識されていたにもかかわらず、有効な対策が打たれないまま現在の惨状を招いています。先日、50年後の働き手が4割減の見通しとの記事を書きましたが、

人口、2053年に1億人割れ 厚労省推計 50年後8808万人 働き手4割減 - 流浪の社労士ブログ

将来の日本人は、人口減少問題を無為無策で放置した今の時代の為政者をどう評価するのでしょうか。