青学、3.7億円支払いへ 一時金減額訴訟 教職員と和解

 青山学院大などを運営する学校法人「青山学院」(東京都渋谷区)の教職員313人が、ボーナスに当たる一時金を一方的に減額されたとして、総額約3億7千万円の支払いを求めていた訴訟は、青山学院が全額を支払うとの和解が東京地裁(吉田徹裁判長)で成立した。20日付。

 原告を支援する教職員組合によると、一時金の支給額は就業規則に月数で明記されていたが、青山学院は2013年、財政難を理由に規定の削除と減額を組合に提案。合意がないまま規定を削除し、14年夏以降の一時金を減額した。

 和解条項では、青山学院が約3億7千万円の支払いに加え、18年夏まで減額前の水準を維持すると約束。その後は労使交渉で決めるとしている。

(2017.4.23 日本経済新聞

いわゆる「不利益変更」の案件ですね。労働契約法10条で不利益変更について以下のように定めています。

「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(以下略)」

記事によれば、青山学院では一時金(賞与)の支給額を月数で明記していたとのことですので、よくある「夏〇ヵ月・冬〇ヵ月」のような支給基準を就業規則に具体的に書いていたのでしょう。

われわれ社労士が作成する就業規則にはまずこのような文言を明記することはなく、「会社は、会社の業績、社員の査定結果等を考慮して、賞与を支給するものとする。ただし、会社の業績状況等により支給しないことができる。」など、支給額を具体的に書くことはありません。例えば「夏は基本給2ヵ月分・冬は基本給2ヵ月分」と就業規則に書いてしまうと、業績悪化でキャッシュが不足している時でも明示した金額の賞与を支払わなければいけないからです。

青山学院はかつて就業規則を作成した時に具体的な月数を明記してしまったものの、やはりリスクが大きいため、業績連動型に変更したかったのでしょうね。しかし、組合の合意がないまま賞与に係る規定を削除したため、紛争に至ってしまいました。和解条項では組合の請求額の全額を支払うとのことですので、青山学院側の実質敗訴です。

業績が良かった時に作成した就業規則や給与規程を改定したいというご相談は、私も時折受けることがあります。しかし、不利益変更を行うときは、時間と手間を惜しまずに変更について労働者代表や組合の理解が得られるよう、経営者側が誠意を尽くすべきだと思います。今日の記事は、強引に不利益変更をしても結局後で高いツケを払わされるという典型例でしょう。

電通社長を任意聴取 厚労省 違法残業、捜査終結へ

 新入女性社員が過労自殺した電通を巡る捜査で、厚生労働省は20日、同社の山本敏博社長から任意で聴取した。名古屋など3支社で労使協定の上限を超える違法な残業を社員にさせていた疑いがあると判断。来週にも法人としての電通と、3支社の幹部を労働基準法違反の疑いで書類送検する方針を固めた。昨年11月から始まった電通を巡る一連の捜査は、終結する見通しとなった。

(2017.4.21 日本経済新聞

電通の新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)が2015年12月25日に自殺をしたのは、直前に残業時間が大幅に増えたのが原因だとして、三田労働基準監督署が労災認定をした事件は、社会に大きな衝撃を与えました。

東京労働局などは2016年10月、電通の東京本社と3支社に対して任意の立ち入り調査を行った結果、複数の部署で労使協定の上限を超える違法残業の疑いが浮上。11月に強制捜査に切り替え、押収した勤務関連の資料を分析したところ、社員の出入りを記録する入退館記録と会社への申告が大幅に食い違う事実が判明しました。そして12月28日には、社員に違法な残業をさせていたとして、労働基準法違反の疑いで法人としての電通と高橋さんの当時の上司を書類送検する事態に至りました。

電通過労自殺者を出したのは今回が初めてではありません。1991年8月には、入社2年目の男性が長時間労働が原因でうつ病にかかり、自殺をしています。遺族である両親が電通に対して損害賠償を請求した訴訟で、最高裁は、長時間労働によるうつ病の発症、うつ病罹患の結果としての自殺という一連の連鎖が認められる、と判断しました。この判決は、長時間労働と従業員の過労自殺に因果関係を認めた初の最高裁判決となりました(その後の差戻審において、最終的には、会社が約1億6,800万円を支払うとの内容で和解が成立)。

世界屈指の大手広告会社によって繰り返された過労自殺事件は、皮肉にも今般の働き方改革を推進する大きな契機となりました。電通は1度目の過労自殺の際に、長時間労働体質を改めると表明していたにもかかわらず、その後もサービス残業が常態化するなど、組織的に違法行為を継続していた疑いがあり、今回の書類送検もやむなしと言えるでしょう。

いなげや社員 労災認定 労基署「長時間労働で過労死」

 首都圏が地盤の食品スーパー、いなげやの男性社員(当時42)が脳梗塞で死亡したのは長時間労働が原因だとして、さいたま労働基準監督署さいたま市)が昨年6月、過労死として労災認定していたことが17日、分かった。

 都内で記者会見した代理人弁護士によると、男性は2011年11月から同社の志木柏町店(埼玉県志木市)で勤務。14年6月に店舗を出た直後に倒れ、脳梗塞で亡くなった。

 同労基署は脳梗塞発症前の4カ月間の時間外労働が1カ月当たり平均75時間53分だったと推定。ほかにも労働時間と推定される時間があり、労災認定の目安である1カ月当たり80時間を超える時間外労働をしていた可能性が高いと判断。昨年6月28日付で労災認定した。

(2017.4.18 日本経済新聞

いわゆる過労死ラインは、①発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合、あるいは②発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合をいいます。

記事によれば、脳梗塞発症前の4カ月間の時間外労働は平均75時間53分とのことですので過労死ラインは下回っていますが、ほかにも労働時間と推定される時間があったために労災認定とのことです。きちんと勤怠管理をしている会社でも、社員に長時間労働をさせれば、万が一の際には労災認定される可能性があるという実例です。

男性は始業時刻前の出社についてタイムカードを打刻していなかったり、終業後もサービス残業していたとのことですが、仮に社員が自発的にそのような働き方をしていたとしても、いまや会社の管理責任が問われてしまいます。小売業・飲食業はパート・アルバイト社員が多いため、少ない正社員に業務が集中しやすいと言われますが、長時間労働に依存した事業モデルはもはや成立しない時代になっています。

待機児童ゼロ先送り 19年度末に、働く女性増で

 厚生労働省が検討している待機児童解消に向けた新計画の原案が15日、明らかになった。女性の就業者数が想定以上に増えていることなどから施設の供給が追いつかず、2017年度末としていた待機児童ゼロの達成時期を19年度末まで延ばす。22年度までに女性の就業率が80%に上昇しても待機児童を解消できるよう保育の受け皿整備をめざす。

(2017.4.16 日本経済新聞

ここ数年で、保育の定員枠は増えていますが、待機児童数はほとんど減っていません。これは認可保育所に入園できないために育児休業を延長しているケースなどが待機児童に含まれないなど、それまでカウントされなかった潜在的な待機児童が顕在化したことが原因と考えられています。つまり、待機児童は表に出ている数字以上に深刻な問題ということです。

そもそも待機児童問題は女性の社会参加を阻むものとして、待機児童ゼロの早期実現は少子高齢化対策の中でも優先的な政策であったはずです。それにもかかわらず、女性の就業者数の増加で待機児童が増加とはまさに本末転倒です。

待機児童問題は20年も前から認識されていたにもかかわらず、有効な対策が打たれないまま現在の惨状を招いています。先日、50年後の働き手が4割減の見通しとの記事を書きましたが、

人口、2053年に1億人割れ 厚労省推計 50年後8808万人 働き手4割減 - 流浪の社労士ブログ

将来の日本人は、人口減少問題を無為無策で放置した今の時代の為政者をどう評価するのでしょうか。

「限定正社員」に慎重意見 公開討論会で政府や労使

 政府の規制改革推進会議は13日、働く場所や時間、業務範囲をあらかじめ限る「限定正社員」の普及に向けた公開討論会を開いた。会議の民間委員は制度の悪用を防ぐために、労働条件の明示などを法律で企業に義務付けるよう求めたが、出席した労使と厚生労働省の代表はいずれも慎重な立場を示した。

 経団連は企業の負担が増える規制強化に消極的で「法改正しなくても、現状の制度を十分に周知すればいい」(輪島忍労働法制本部長)と述べた。連合は限定正社員の普及で今の正社員の待遇が下がることを懸念しており、「制度の普及はそれぞれの企業に任せるべきだ」(安永貴夫副事務局長)と法制化には慎重だった。

(2017.4.14 日本経済新聞

限定正社員とは、契約期間に定めがなく、勤務地、職務、勤務時間などに一定の制約がある勤務形態の社員を指します。限定正社員には主に勤務地限定正社員、職務限定正社員、勤務時間限定正社員(短時間正社員)の3種類があります。なお、厚生労働省では「限定」というネガティブな響きを嫌ってか、「多様な正社員」と呼ぶことが多いようです。

正社員と契約社員との違いは、本質的には契約期間に定めがあるかないかだけです。しかし、日本における正社員は、ほぼ無限定に転勤、ジョブローテーション、残業・休日出勤を受け入れる点、実質的には契約社員と大きな違いがありました。この違いこそ、正社員と非正規社員の賃金格差の根拠となってきました。

しかし、育児や介護によって勤務時間や勤務地に制約がある社員が職場の一定数を占めるようになり、正社員のような無限定な働き方でなくても、契約期間は無期である限定正社員という労働形態が徐々に浸透しつつあります。先鞭をつけたのは「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングで、2007年にフルタイムの非正規社員の約2割、5,000人を月給制で店長まで昇格可能な地域限定正社員に登用する、と発表して話題を呼びました。

引用の記事では、経団連も連合も限定正社員の法制化には慎重とのことですが、折からの人手不足で各社とも優秀な人材の囲い込みに必死ですので、限定正社員は今後ますます増えることになるでしょう。今のところ民間が先行して制度を導入していますが、今後のトラブル防止のためにも早期の法制化が待たれるところです。

脱時間給 今国会見送り 臨時国会、働き方改革と一体審議

 政府・与党は労働時間ではなく仕事の成果に給料を支払う「脱時間給制度」を盛り込んだ労働基準法改正案の今国会成立を見送る方針を固めた。7月の東京都議選を控え、与野党の対決が見込まれる同法案の審議は得策ではないと判断した。秋に予定する臨時国会で、残業時間の上限規制などを含む「働き方改革関連法案」と一体で審議し、成立をめざす戦略だ。

(2017.4.12 日本経済新聞) 

「脱時間給」を盛り込んだ労基法改正案は、2015年4月に国会に提出されています。しかし野党が「残業代ゼロ法案」などど批判、与党も衝突回避をして、審議は2年間も据え置きになったままです。

脱時間給の対象は年収1075万円以上の専門職です。1000万円以上の給与所得がある人は全体の4%弱と言われ、この中にはもともと残業代の出ない取締役や管理監督職が多く含まれているので、直接的に影響が出る人の割合はさらに少ないとみられています。このような、所得的にはかなり恵まれており、自己裁量も高い特殊なケースの社員の働き方を、労働時間という概念で一括りにするのが実態に合うのかは疑問が残るところです。

多様な働き方を推進するのであれば、労働者にとってメリットのある施策ばかりでなく、デメリットのある施策についても議論を尽くすべきです。労基法改正案は遅々として審議が進まず、働き方改革推進の妨げになっています。この問題を政争の具にするような愚かな行為は与野党ともに控えるべきではないでしょうか。

人口、2053年に1億人割れ 厚労省推計 50年後8808万人 働き手4割減

 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は10日、長期的な日本の人口を予測した「将来推計人口」を公表した。1人の女性が生む子供の数が今と変わらない場合、人口は2053年に1億人を割り、65年には15年比3割減の8808万人になる。働き手の世代は4割減とさらに大きく減る見通しだ。政府が経済成長に必要とする1億人を保つのは難しく、政策は大きな見直しを迫られる。

(2017.4.11 日本経済新聞

少子・高齢化については、以前から報道されていたとおりですが、社会保障・人口問題研究所の発表では、15~64歳の生産年齢人口は現在の7728万人から50年後には4529万人と4割減になる見通しです。

生産年齢人口減少の対策の1つとして、政府は数年前から女性や高齢者の社会参加を促進する政策を採ってきましたが、ますます進展する少子化の前では焼け石に水といった印象は拭えません。

人口減少対策としては、さらに生産性の向上があげられます。ただ、日本生産性本部の発表によると、2015年の日本の労働生産性は、1時間当たり42.1ドル。これはアメリカの6割強の水準で、順位はOECD加盟35カ国中20位、主要先進7カ国の中では最下位です。この状況を打破しない限り、人口減少による経済力の低下は免れないでしょう。