雇用保険 対象を拡大 週20時間勤務で適用に 兼業や副業後押し

 厚生労働省雇用保険の適用を受ける人の範囲を広げる。いまは1つの会社で週20時間以上働く人が対象だが、複数の会社に勤務していても失業手当をもらえるようにする。兼業や副業で仕事を掛け持ちする労働者の安全網を手厚くして、柔軟な働き方を後押しする。来年にも国会に関連法の改正案を提出する。(中略)

 雇用保険に入るには同じ会社で週20時間以上働くとともに、31日以上の期間にわたって仕事をするのが条件となる。兼業で働く人がA社で週10時間、B社で週10時間働いても、保険の対象にならない。

 こうした仕組みは兼業や副業といった働き方が増えるにつれ、現状に合わなくなってきている。厚労省は複数の企業に勤めていても、合計の労働時間が週20時間を超えていれば、雇用保険に入れるように制度を改める考えだ。

(2017.2.21 日本経済新聞

社会保険(健康保険・厚生年金保険)には、労働者が複数の会社に同時に使用された場合に、それぞれの会社が支払う給与に応じて保険料を按分して負担する制度がありますが、雇用保険には同様の制度はありませんでした。

引用の記事によれば、複数の会社の労働時間の合計が週20時間以上になる場合は、雇用保険の加入対象とするよう法改正を行われるようです。雇用保険は失業時の所得補償を担う保険ですが、複数会社勤務の場合も加入対象となると、いずれか一方の会社のみを退職した場合でも「失業」とみなすのかなど、これから様々な論点が考えられます。

政府の進める働き方改革には、兼業・副業などの多様な働き方の推進もあります。今回の雇用保険の加入対象の改正はこれを後押しすることになりそうです。

残業の上限規制 連合に譲歩迫る

 政府が残業時間の上限規制に向けた調整で、連合に対する包囲網を築こうとしている。連合は繁忙期の労働時間の上限を月100時間とする政府原案では規制が緩いと反対しているのに対し、政府は上限規制の取り下げもちらつかせて譲歩を迫る。働き方改革実行計画をまとめる3月末まで政労使の駆け引きが激しくなる。

 加藤勝信働き方改革相は17日の記者会見で労使に対し「(計画に)具体的な中身が織り込まれるように努力してほしい」と述べた。安倍晋三首相は14日、労使で具体策を合意できなければ「(上限制を導入する)法案は出せない」と強調した。

 労使それぞれに歩み寄りを求めているようにみえるが、政府が強く意識するのは連合だ。連合は「月100時間の上限は到底あり得ない」(神津里季生会長)と強く反発している。経済界が条件付きとはいえ上限規制の導入を容認し、譲歩しているのとは対照的だ。

 そもそも上限制の導入は労働者に優しい政策を提言する連合の悲願だ。連合の反対で導入が見送られれば「連合自身のメンツがつぶれかねない」(政府関係者)。経団連榊原定征会長と神津氏は月内にも会談するが、労使間での協議は難航も予想される。

(2017.2.18 日本経済新聞

先日、残業の上限を月60時間、1年間で720時間とする政府案の記事を取り上げましたが、これに1カ月のみなら100時間までの残業を可能とし、2カ月平均で80時間を超えないように規制する案が追加される予定です。

この残業の上限規制の導入案について、経済界は概ね容認しているのに対し、連合が反対しているのですから驚きです。上限が月100時間では規制が緩いというのが反対の理由のようですが、現行法では残業時間は実質青天井なのですから、上限規制ができるだけでも大きな前進のはずです。

労働組合の推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は17.3%で、6年連続で過去最低を更新しています。引用の記事からも労働組合が現場労働者の意見を汲み取れていない実情が垣間見えます。長時間労働の是正はいまや労使の壁を超えて取り組まなければならない課題ですので、労働組合ももう少し柔軟な対応が必要なのではないでしょうか。

残業上限 月60時間 政府提示、労使受け入れへ

 政府は14日、首相官邸で働き方改革実現会議を開き、残業の上限を月60時間と定めた政府案を示した。1年間で720時間に収めることとし、繁閑に合わせた残業時間の調整を可能とする。会議に参加する労使ともに受け入れる方針だ。政府は労働基準法改正案を年内に国会に提出し、早ければ2019年度に運用を始める。(中略)

 働き過ぎの現状を変えるため、政府は労基法で残業の上限を定める。その時間を上回る残業をさせた場合は企業に罰則を科す。政府案は36協定の特例として、年間の残業時間を720時間、月平均で60時間と定めた。

 繁忙期に対応するための措置も今後検討する。仕事が集中する時期には月60時間を超す残業を容認。1カ月のみなら100時間までの残業を可能とし、2カ月平均で80時間を超えないように規制する案で最終的に詰める。100時間超の残業は脳や心臓疾患による過労死のリスクが高まるとされており、この数字は超えないようにする。

(2017.2.15 日本経済新聞

残業時間の上限についての政府案ですが、事前の報道通り、残業時間の1ヵ月の上限は60時間、年間の上限は720時間とされました。今回の政府案には盛り込まれせんでしたが、今後、繁忙期は1ヵ月のみならば100時間までの残業を可能とし、2ヵ月平均で80時間を超えないようにする、という案も追加されそうです。

月の残業時間が1ヵ月平均で100時間を超えた場合、または2~6ヵ月平均で80時間を超えた場合には、過労死リスクが高まることはよく知られています。この過労死ラインギリギリの残業時間の上限が報じられた際には、長時間労働を助長するなどの批判意見もありました。ただ、現在の法規制では、特別条項付きの36協定を結べば、残業時間は実質青天井のため、これにメスを入れた今回の政府案はかなり大きな前進と言えます。

現段階では政府案が提示されただけで、経過措置などの具体的な中身はこれから審議されますが、この残業の上限規制は早ければ2019年度にも運用開始とのことです。長時間労働は一朝一夕に改善されるものではありませんので、現在残業体質になっている企業は、数年先の法改正を見越して、早い段階から時短促進を検討する必要がありそうです。

副業や兼業、2割が容認 就業規則の策定に課題

 転職サービスのリクルートキャリア(東京・千代田)は副業や兼業に対する企業の意識調査をまとめた。調査によると、約2割の企業が正社員の副業や兼業を容認していると回答した。政府は副業や兼業の「原則容認」を打ち出す方向で、企業側も対応する動きを見せるが、就業規則の策定などが遅れていることも明らかとなった。

 1月6~27日にかけ、全国2000社を対象に電話調査を行い、1147社から回答を得た。

 自社の社員に副業や兼業を認めるか聞いたところ、「容認している」「推進している」と回答した企業は計22.9%だった。容認・推進の理由(複数回答)を聞いたところ、「特に禁止する理由がない」が最も多く、68.7%に上った。続いて「従業員の収入増につながる」との回答が多く、26.7%だった。

 ただ、副業・兼業を容認・推進している企業に就業規則などの規定があるのか尋ねたところ、68.3%が「規定自体ない」と回答した。

(2017.2.14 日本経済新聞

このところ、副業や兼業を容認する企業が増えています。政府も同様の方針で、厚労省のモデル就業規則も副業・兼業を原則容認する方向です。そのこと自体は多様な働き方を促し、労働者の可処分所得を増やす結果になりますので、今後も推進されるべき施策ですが、見落とされがちなのが残業代の扱いです。

例えば、午前中に他社で4時間勤務している社員を、午後に自社で6時間勤務させるために雇入れた場合を考えてみましょう。労基法が定める1日の法定労働時間は8時間ですので、6時間しか勤務していない当該社員に残業代は発生しないと考える方も多いのですが、これは間違いです。

労基法第38条1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。つまり2ヵ所以上で勤務した場合でも労働時間は通算しますので、1日8時間を超えた分には原則として残業代が発生します。

このとき、他社と自社のどちらが残業代を払うかについては、(1)後から採用した会社が払う、(2)8時間を超えた場合に残業させた会社が払う、という2つの考え方がありますが、上記のケースでは(1)、(2)いずれの考え方でも、自社に残業代の支払義務があることになります。

つまり、2社勤務という形式でコンプライアンスを遵守しようとすれば、もう一方の会社の勤務時間も把握しておかなければならず、これは事務担当者にとってはかなりの負担になります。IT業界などでは、他の業種に比べて副業・兼業の容認が進んでいるようですが、おそらくフリーランスのような形式が多いと思われます。自営業は労基法上の労働者ではないため、上記の労働時間通算の考え方は適用されません。

副業や兼業の容認は今後のトレンドになりそうですが、残業代の他に機密漏洩や長時間労働のリスクもありますので、流行に飛びつく前に、自社の実態に合う制度か否か慎重に検討することが重要なのは言うまでもないでしょう。

「日本電産 永守重信 社長からのファクス42枚」

先日、日本電産が2020年までの国内従業員約1万人の残業ゼロに向けて、1000億円を投資する記事を取り上げました。

その日本電産M&A担当取締役として、買収会社の再建にあたった川勝宣昭氏の著書「日本電産 永守重信 社長からのファクス42枚」を読みました。

 営業マンが、夜、会社に連絡すれば、設計や工場は必ず残っていて、営業と一体で動く体制ができている。したがって、工場・開発はその夜のうちに見積もり作業をスタートさせます。

 そして営業マンは、翌日の午後には見積書を持って顧客を再訪。これには相手がびっくりします。

 お試し見積もりで要求したかもしれないお客様側も、「せっかくだから、ではひとつ検討してみるか」となるでしょう。

日本電産 永守重信 社長からのファクス42枚 「営業が動いている間は、工場・開発は帰るな」より抜粋)

現在は残業ゼロを目指している日本電産ですが、数年前にはこのような時代もあったのですね。これは変節というより、日本電産の柔軟な社風を示しているというべきで、著者は残業ゼロ宣言について、まえがきで以下のように述べています。「これは、『これからの社会に求められる働き方にいち早く対応していく』という宣言であり、日本電産が日々進化し続けていることがお分かりいただけると思います。」

 経費削減に手をつけながら、次に取りかかる大物のコストダウンは、購買コストです。

 購買コストとは、会社が外部から購入する材料費、外注費を指します。これを日本電産では一括りに「材外費」と呼んでいます。

 この削減目標(材外費比率)も非常に高いレベルで、目標値は「売価の50%以下」でした。

日本電産 永守重信 社長からのファクス42枚 「購買コストは5段階ネゴ交渉方式で下げよ」より抜粋)

少し気になったのは、買収会社の再建に際してのコストダウンについての部分です。もちろん、事務用品費、水道光熱費、運送物流費、飲食交際費などの経費削減と併せて購買コストの削減に着手するようですので、決して安易に材料、部品メーカーに負担を移転しているわけではありません。

しかし、本来、買収会社の再建という購買コスト削減の理由は、材料、部品メーカーには関係のない話で、いったん会社間の契約で決まった購買価格を一方的な理由で切り下げられるのは迷惑な話でしょう。とはいえ、有名企業の傘下に入った会社の値下げ交渉を袖にすれば、どのような結果が待っているかはメーカー自身が良く分かっているため、交渉には応じざるを得ないのが現実です。

 この値下げ交渉で私たちが気をつけたのは、値下げに協力してくれた材料、部品メーカーには、翌期の発注は値下げ率より多く発注することでした。

 たとえば、10%下げてくれたら15%増量で発注するということです。われわれは部品単価引き下げをエンジョイし、材料、部品メーカーには、面積で売上増加をエンジョイしてもらうわけです。

日本電産 永守重信 社長からのファクス42枚 「購買コストは5段階ネゴ交渉方式で下げよ」より抜粋)

少なくとも著者が関与した買収企業においては、上記のルールが守られていたようですので、値下げ交渉を飲まざるを得なかった材料、部品メーカーにとってもデメリットだけではなかったようです。ただ、本質的には、大企業の目標達成のために下請け企業にしわ寄せが来るのは大企業のエゴと言われても仕方のないところです。

数年前の流行語にノミネートされた「トリクルダウン」(富裕層が富めば、貧困層にも富がしたたり落ちるとする経済理論)の効果は、いまやその旗振り役であった竹中平蔵氏も否定するほどです。民間企業任せでは中小企業の労働環境はなかなか良くならないのが現実で、今後具体的な施策が発表される政府の「働き方改革」で、どこまで踏み込むのかが注目されます。

パナソニック工場で過労死 福井、下請け従業員

 福井市パナソニック森田工場に勤めていた男性が過労死と労災認定され、遺族代理人の海道宏実弁護士が9日、同市内で記者会見し、死亡する前の2カ月間、過労死ラインとされる月80時間ほどの時間外労働が続いていたと明らかにした。

 男性はパナソニックの2次下請け会社「アイエヌジー」(福井県あわら市)の契約社員の上田浩志さん(当時46)。深夜勤務後の2015年10月、くも膜下出血により死亡した。福井労働基準監督署長時間労働による過労が原因とし、今年1月31日付で労災認定した。

 工場で上田さんは電子部品の加工を担当。午後11時から午前7時15分までの深夜勤務が固定化しており、15年3月から週の半分は2~4時間早く出社していたという。

 パナソニックは「雇用関係がないのでコメントは差し控える」とし、アイエヌジーは「担当者がいないのでコメントできない」としている。

(2017.2.10 日本経済新聞

紙面上は小さな記事で詳細は不明ですが、過労死してしまった男性は、パナソニックの2次下請け会社の契約社員で、勤務場所はパナソニックの森田工場とのことですので、派遣か在籍出向のような形式を採っていたのでしょう。この男性の勤務時間帯は午後11時から午前7時15分までの深夜勤務。パナソニックのこの工場は24時間稼働で、日中はパナソニック社員が勤務し、深夜時間帯は下請企業の社員が勤務という勤務形態だったのでしょうか。

最近は長時間労働是正についての報道を連日目にするようになりましたが、そのほとんどは誰もが名前を聞いたことのある大企業で、中小企業の長時間労働対策がどこまで進んでいるかは興味のあるところでした。昨年6月に閣議決定された、ニッポン一億総活躍プランには以下のような文言があります。

関係省庁が連携して下請などの取引条件にも踏み込んで長時間労働を是正する仕組みを構築する。例えば、長時間労働の背景に下請法や独占禁止法(物流特殊指定)の違反が疑われる場合に、その取締りを通じて長時間労働を是正する仕組みを、厚生労働省中小企業庁及び公正取引委員会で構築する。

(ニッポン一億総活躍プラン)

つまり、雇用関係だけでなく、下請けや外注などの企業間取引も公正にしなければ、日本全体での長時間労働是正は達成できないことが明確に示されています。このご時世ですので、パナソニックでも時短はかなり進んでいるはずですが、そのしわ寄せが下請企業に行くのでは本末転倒です。それにしても、自社工場で働いていた方が過労死したにもかかわらず、「雇用関係がないのでコメントは差し控える」というパナソニックのコメント、リスク管理の観点からはやや危機感が足りないような気がしないでもないですが・・・。

「同一賃金」法改正へ議論 待遇差の説明義務 焦点に 

 厚生労働省有識者検討会は7日、政府の働き方改革実現会議がまとめた同一労働同一賃金ガイドライン案に沿った法改正について議論を始めた。待遇差に関し、説明義務や裁判でどのように立証するかが焦点となる。政府が3月中にまとめる働き方改革の実行計画に反映させる。

 3月上旬をメドに論点整理をする。政府は昨年12月に同一労働同一賃金ガイドライン案を示した。法改正ではその根拠となる条文を整備する。労働契約、パートタイム労働、派遣労働者の3法が対象となる。

(2017.2.8 日本経済新聞

政府の進める働き方改革の柱の1つが「同一労働同一賃金」です。昨年12月にガイドライン案が発表されましたが、やや驚いたのが賞与の取扱いです。

 <問題となる例②>
・賞与について、D社においては、無期雇用フルタイム労働者には職務内容や貢献等にかかわらず全員に支給しているが、有期雇用労働者又はパートタイム労働者には支給していない。

同一労働同一賃金ガイドライン案)

パートタイム労働者については、賞与を支給していない企業が大半だと思いますが、ガイドライン案は、会社の業績等への貢献に応じて賞与を支給する会社では、上記の通り、有期雇用労働者又はパートタイム労働者に賞与を支給しないのは「問題となる例」としています。

引用の記事の通り、労働契約法などの法改正については、これから議論されるところですが、ガイドライン案に沿って法改正されるのであれば、現場に落とし込むのにかなり苦労しそうな感じです。

同一労働同一賃金の実現にあたって、正社員の待遇が不利益変更されるのは本末転倒だというのが政府の見解ですが、各企業とも人件費に割ける金額は限られており、どのような着地点が望ましいのか、我々も知恵を絞らなければいけなくなるでしょうね。