副業や兼業、2割が容認 就業規則の策定に課題

 転職サービスのリクルートキャリア(東京・千代田)は副業や兼業に対する企業の意識調査をまとめた。調査によると、約2割の企業が正社員の副業や兼業を容認していると回答した。政府は副業や兼業の「原則容認」を打ち出す方向で、企業側も対応する動きを見せるが、就業規則の策定などが遅れていることも明らかとなった。

 1月6~27日にかけ、全国2000社を対象に電話調査を行い、1147社から回答を得た。

 自社の社員に副業や兼業を認めるか聞いたところ、「容認している」「推進している」と回答した企業は計22.9%だった。容認・推進の理由(複数回答)を聞いたところ、「特に禁止する理由がない」が最も多く、68.7%に上った。続いて「従業員の収入増につながる」との回答が多く、26.7%だった。

 ただ、副業・兼業を容認・推進している企業に就業規則などの規定があるのか尋ねたところ、68.3%が「規定自体ない」と回答した。

(2017.2.14 日本経済新聞

このところ、副業や兼業を容認する企業が増えています。政府も同様の方針で、厚労省のモデル就業規則も副業・兼業を原則容認する方向です。そのこと自体は多様な働き方を促し、労働者の可処分所得を増やす結果になりますので、今後も推進されるべき施策ですが、見落とされがちなのが残業代の扱いです。

例えば、午前中に他社で4時間勤務している社員を、午後に自社で6時間勤務させるために雇入れた場合を考えてみましょう。労基法が定める1日の法定労働時間は8時間ですので、6時間しか勤務していない当該社員に残業代は発生しないと考える方も多いのですが、これは間違いです。

労基法第38条1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。つまり2ヵ所以上で勤務した場合でも労働時間は通算しますので、1日8時間を超えた分には原則として残業代が発生します。

このとき、他社と自社のどちらが残業代を払うかについては、(1)後から採用した会社が払う、(2)8時間を超えた場合に残業させた会社が払う、という2つの考え方がありますが、上記のケースでは(1)、(2)いずれの考え方でも、自社に残業代の支払義務があることになります。

つまり、2社勤務という形式でコンプライアンスを遵守しようとすれば、もう一方の会社の勤務時間も把握しておかなければならず、これは事務担当者にとってはかなりの負担になります。IT業界などでは、他の業種に比べて副業・兼業の容認が進んでいるようですが、おそらくフリーランスのような形式が多いと思われます。自営業は労基法上の労働者ではないため、上記の労働時間通算の考え方は適用されません。

副業や兼業の容認は今後のトレンドになりそうですが、残業代の他に機密漏洩や長時間労働のリスクもありますので、流行に飛びつく前に、自社の実態に合う制度か否か慎重に検討することが重要なのは言うまでもないでしょう。

「日本電産 永守重信 社長からのファクス42枚」

先日、日本電産が2020年までの国内従業員約1万人の残業ゼロに向けて、1000億円を投資する記事を取り上げました。

その日本電産M&A担当取締役として、買収会社の再建にあたった川勝宣昭氏の著書「日本電産 永守重信 社長からのファクス42枚」を読みました。

 営業マンが、夜、会社に連絡すれば、設計や工場は必ず残っていて、営業と一体で動く体制ができている。したがって、工場・開発はその夜のうちに見積もり作業をスタートさせます。

 そして営業マンは、翌日の午後には見積書を持って顧客を再訪。これには相手がびっくりします。

 お試し見積もりで要求したかもしれないお客様側も、「せっかくだから、ではひとつ検討してみるか」となるでしょう。

日本電産 永守重信 社長からのファクス42枚 「営業が動いている間は、工場・開発は帰るな」より抜粋)

現在は残業ゼロを目指している日本電産ですが、数年前にはこのような時代もあったのですね。これは変節というより、日本電産の柔軟な社風を示しているというべきで、著者は残業ゼロ宣言について、まえがきで以下のように述べています。「これは、『これからの社会に求められる働き方にいち早く対応していく』という宣言であり、日本電産が日々進化し続けていることがお分かりいただけると思います。」

 経費削減に手をつけながら、次に取りかかる大物のコストダウンは、購買コストです。

 購買コストとは、会社が外部から購入する材料費、外注費を指します。これを日本電産では一括りに「材外費」と呼んでいます。

 この削減目標(材外費比率)も非常に高いレベルで、目標値は「売価の50%以下」でした。

日本電産 永守重信 社長からのファクス42枚 「購買コストは5段階ネゴ交渉方式で下げよ」より抜粋)

少し気になったのは、買収会社の再建に際してのコストダウンについての部分です。もちろん、事務用品費、水道光熱費、運送物流費、飲食交際費などの経費削減と併せて購買コストの削減に着手するようですので、決して安易に材料、部品メーカーに負担を移転しているわけではありません。

しかし、本来、買収会社の再建という購買コスト削減の理由は、材料、部品メーカーには関係のない話で、いったん会社間の契約で決まった購買価格を一方的な理由で切り下げられるのは迷惑な話でしょう。とはいえ、有名企業の傘下に入った会社の値下げ交渉を袖にすれば、どのような結果が待っているかはメーカー自身が良く分かっているため、交渉には応じざるを得ないのが現実です。

 この値下げ交渉で私たちが気をつけたのは、値下げに協力してくれた材料、部品メーカーには、翌期の発注は値下げ率より多く発注することでした。

 たとえば、10%下げてくれたら15%増量で発注するということです。われわれは部品単価引き下げをエンジョイし、材料、部品メーカーには、面積で売上増加をエンジョイしてもらうわけです。

日本電産 永守重信 社長からのファクス42枚 「購買コストは5段階ネゴ交渉方式で下げよ」より抜粋)

少なくとも著者が関与した買収企業においては、上記のルールが守られていたようですので、値下げ交渉を飲まざるを得なかった材料、部品メーカーにとってもデメリットだけではなかったようです。ただ、本質的には、大企業の目標達成のために下請け企業にしわ寄せが来るのは大企業のエゴと言われても仕方のないところです。

数年前の流行語にノミネートされた「トリクルダウン」(富裕層が富めば、貧困層にも富がしたたり落ちるとする経済理論)の効果は、いまやその旗振り役であった竹中平蔵氏も否定するほどです。民間企業任せでは中小企業の労働環境はなかなか良くならないのが現実で、今後具体的な施策が発表される政府の「働き方改革」で、どこまで踏み込むのかが注目されます。

パナソニック工場で過労死 福井、下請け従業員

 福井市パナソニック森田工場に勤めていた男性が過労死と労災認定され、遺族代理人の海道宏実弁護士が9日、同市内で記者会見し、死亡する前の2カ月間、過労死ラインとされる月80時間ほどの時間外労働が続いていたと明らかにした。

 男性はパナソニックの2次下請け会社「アイエヌジー」(福井県あわら市)の契約社員の上田浩志さん(当時46)。深夜勤務後の2015年10月、くも膜下出血により死亡した。福井労働基準監督署長時間労働による過労が原因とし、今年1月31日付で労災認定した。

 工場で上田さんは電子部品の加工を担当。午後11時から午前7時15分までの深夜勤務が固定化しており、15年3月から週の半分は2~4時間早く出社していたという。

 パナソニックは「雇用関係がないのでコメントは差し控える」とし、アイエヌジーは「担当者がいないのでコメントできない」としている。

(2017.2.10 日本経済新聞

紙面上は小さな記事で詳細は不明ですが、過労死してしまった男性は、パナソニックの2次下請け会社の契約社員で、勤務場所はパナソニックの森田工場とのことですので、派遣か在籍出向のような形式を採っていたのでしょう。この男性の勤務時間帯は午後11時から午前7時15分までの深夜勤務。パナソニックのこの工場は24時間稼働で、日中はパナソニック社員が勤務し、深夜時間帯は下請企業の社員が勤務という勤務形態だったのでしょうか。

最近は長時間労働是正についての報道を連日目にするようになりましたが、そのほとんどは誰もが名前を聞いたことのある大企業で、中小企業の長時間労働対策がどこまで進んでいるかは興味のあるところでした。昨年6月に閣議決定された、ニッポン一億総活躍プランには以下のような文言があります。

関係省庁が連携して下請などの取引条件にも踏み込んで長時間労働を是正する仕組みを構築する。例えば、長時間労働の背景に下請法や独占禁止法(物流特殊指定)の違反が疑われる場合に、その取締りを通じて長時間労働を是正する仕組みを、厚生労働省中小企業庁及び公正取引委員会で構築する。

(ニッポン一億総活躍プラン)

つまり、雇用関係だけでなく、下請けや外注などの企業間取引も公正にしなければ、日本全体での長時間労働是正は達成できないことが明確に示されています。このご時世ですので、パナソニックでも時短はかなり進んでいるはずですが、そのしわ寄せが下請企業に行くのでは本末転倒です。それにしても、自社工場で働いていた方が過労死したにもかかわらず、「雇用関係がないのでコメントは差し控える」というパナソニックのコメント、リスク管理の観点からはやや危機感が足りないような気がしないでもないですが・・・。

「同一賃金」法改正へ議論 待遇差の説明義務 焦点に 

 厚生労働省有識者検討会は7日、政府の働き方改革実現会議がまとめた同一労働同一賃金ガイドライン案に沿った法改正について議論を始めた。待遇差に関し、説明義務や裁判でどのように立証するかが焦点となる。政府が3月中にまとめる働き方改革の実行計画に反映させる。

 3月上旬をメドに論点整理をする。政府は昨年12月に同一労働同一賃金ガイドライン案を示した。法改正ではその根拠となる条文を整備する。労働契約、パートタイム労働、派遣労働者の3法が対象となる。

(2017.2.8 日本経済新聞

政府の進める働き方改革の柱の1つが「同一労働同一賃金」です。昨年12月にガイドライン案が発表されましたが、やや驚いたのが賞与の取扱いです。

 <問題となる例②>
・賞与について、D社においては、無期雇用フルタイム労働者には職務内容や貢献等にかかわらず全員に支給しているが、有期雇用労働者又はパートタイム労働者には支給していない。

同一労働同一賃金ガイドライン案)

パートタイム労働者については、賞与を支給していない企業が大半だと思いますが、ガイドライン案は、会社の業績等への貢献に応じて賞与を支給する会社では、上記の通り、有期雇用労働者又はパートタイム労働者に賞与を支給しないのは「問題となる例」としています。

引用の記事の通り、労働契約法などの法改正については、これから議論されるところですが、ガイドライン案に沿って法改正されるのであれば、現場に落とし込むのにかなり苦労しそうな感じです。

同一労働同一賃金の実現にあたって、正社員の待遇が不利益変更されるのは本末転倒だというのが政府の見解ですが、各企業とも人件費に割ける金額は限られており、どのような着地点が望ましいのか、我々も知恵を絞らなければいけなくなるでしょうね。

携帯の販売店 営業時間短く

 携帯大手が販売店の営業時間短縮に乗り出す。NTTドコモは年中無休の体制を改めて月に1日ほどの休業日を設けるほか、夜8時まで開いている店舗の閉店時間を1時間繰り上げる店を増やす。ソフトバンクは午後に一定時間閉店する店を設ける。販売競争は引き続き激しいが、各社は働き方改革を優先。人材の確保と接客サービス向上を目指す。

 全国で約10万人の従業員がおり、かつ女性が6~7割を占める携帯販売店の見直しは、他の小売店の運営にも影響を与えそうだ。

(2017.2.5 日本経済新聞

昨年末、佐川急便の配達員が荷物を蹴ったり叩きつけたりしている動画がネットに出回り、会社が謝罪のコメントを出したニュースがありました。ただ、ネットの反応を見ると、「追加料金なしで何度も再配達させられて配達員もかわいそう」、「時間帯指定をあそこまで細かくするのは過剰サービスだ」など、割と配達員に同情的な意見が多かったのを記憶しています。

私の職場の最寄り駅周辺には10店舗ほどファミレスがありますが、深夜でも若者がたむろしている学生街にもかかわらず、24時間営業をしているのは幹線道路沿いの1店舗だけです。原因はここ数年続いている人手不足です。現在、東京都の有効求人倍率は2倍を超えていますので、肉体的にハードな飲食店の深夜業務をわざわざ選ぶ若者はいないということでしょう。

政府の進める働き方改革の柱の1つに長時間労働是正がありますが、単純に労働時間だけを短くすれば企業にとっては売上の減少を意味し、それは労働者の収入減少につながりますので、両者にとって望まざる結果となります。労働時間を短くしても商品やサービスの質を下げないためには、従来よりも効率良く働くこと、すなわち生産性の向上が欠かせません。

働き方改革が目指す方向はヨーロッパ型の生産性の高い働き方です。ヨーロッパでは文化的に顧客と従業員は対等な関係ですので、顧客満足のために従業員に長時間労働を強いるようなことはなく、この文化が高い生産性を支えているとも言えます。日本の働き方がヨーロッパ型を目指す以上、これまでの「お客様は神様です」という文化も変えざるを得ず、「過剰サービスの廃止」は、今後のトレンドになるかもしれません。

自己啓発は労働時間 会社の指示が「暗黙」でも 厚労省指針

 厚生労働省は、長時間労働の温床とされるサービス残業をなくすため、会社側の「暗黙の指示」で社員が自己啓発をした時間も労働時間として扱うことなどを求めた指針を作成した。指針の作成は電通社員の過労自殺を受けて同省が昨年末に公表した緊急の長時間労働対策の一環。

 指針に法的拘束力はないが、同省は労働基準監督署の監督指導などを通じて企業に守るよう徹底する方針。

 労働基準法違反容疑で書類送検された電通では、実際は働いていたのに残業時間を減らすため、自己啓発などを理由に会社にとどまる「私事在館」と申告していたことが問題となり、同社は原則禁止とした。過労自殺した新入女性社員(当時24)が、残業時間が労使協定の上限に収まるよう過少申告していたことも明らかになっている。

(2017.2.4 日本経済新聞

自己啓発は労働時間」というこの記事の見出しで思い出されるのは、トヨタのQC(品質管理)サークル活動です。トヨタカイゼンの原点とも言えるQCサークル活動ですが、以前は労働組合も社員の自主活動と認めており、残業代は月2時間までしか支払われませんでしたが、社員の過労死を契機に、2008年からは残業代の全額が支払われるようになりました。

今回の指針では、「上司からはっきりとした指示がなくても、業務に必要な学習などをした場合は労働時間として扱う」こととされるようで、現場での取り扱いがなかなか厄介なところです。これまでのサラリーマン生活を振り返っても、優秀と言われる社員は皆遅くまで会社に残って人知れず努力をしていました。もちろんその努力に費やした時間を労働時間などと主張した人は誰1人いません。そうやって社内外のライバルとの競争に打ち勝ってきたのではないでしょうか。

連日の長時間労働是正の報道を見ても分かるように、日本もヨーロッパ型の時短促進・生産性向上を目指すという大きな流れは止められないでしょう。ただ自分の駆け出し時代を振り返ると、遅くまで会社に残って先輩の作った資料から良いところを必死で勉強したり、担当以外の類似データから参考資料は無いかと探したりしたものですが、ああいう事はこれからの若い人は「残業代稼ぎ」「生産性を下げる」とみなされてしづらくなるのでしょうね。昭和生まれのおっさんの余計なお節介かもしれませんが。

 

残業「月60時間」へ着手 例外業種が焦点に

 政府は1日、首相官邸で「働き方改革実現会議」を開き、長時間労働是正に向けた議論を始めた。残業上限を月平均60時間、年間計720時間までとする政府案に沿って意見集約を急ぐ。対象は原則、全業種。安倍晋三首相は会議で「長時間労働は構造的な問題で、企業文化や取引慣行を見直すことも必要だ」と指摘した。政府は年内に労働基準法改正案を国会に提出し、早ければ2019年度の施行を目指す。

 この日の会議は各委員からの意見表明が中心で、1カ月の残業上限を平均60時間、年間計720時間までとした政府原案は14日の次回会議で示す。企業の繁閑に柔軟に対応できるようにするため、単月なら100時間、その翌月と合わせた2カ月平均では80時間までなら残業を認める方針だ。

(2017.2.2 日本経済新聞

 労働基準法は、①使用者は1週間に40時間を超えて労働させてはならない、②使用者は1日について8時間を超えて労働させてはならないことを大原則としています。これには例外があり、過半数労働組合または過半数代表者と書面により協定し、労働基準監督署に届け出た場合には、1ヵ月45時間、1年360時間を上限として時間外労働をさせることができます。

この「36協定」にはさらに例外があり、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、特別条項付き協定を結べば、限度時間を超える時間を延長時間とすることができます。この特別条項における「特別の事情」は、臨時的なものに限られ、具体的には、一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要があること、全体として1年の半分を超えないことが見込まれることが要件ですが、この特別条項によって、実質的に残業時間が青天井になっており、長時間労働を助長しているとの批判が多いのも事実です。

現在、実質青天井になっている特別条項による延長時間に「月60時間」の上限を設けるという引用の記事ですが、我々社労士にとってはかなり大きなニュースです。おそらく社労士が関与する企業の36協定の多くは特別条項が設定され、年に6回までであれば、月45時間を超える残業ができるようにしていると思います。

もしこの特別条項を設定していなければ、繁忙期の月45時間超の残業が労基法違反になってしまいますので、コンプライアンス上、特別条項は当然のように設定してきました。ただ、このところの長時間労働是正の風潮で、過労死レベルと言われる月80時間程度の規制は時代の流れでやむなしと思っていたら、それを下回る60時間での政府案。多少の例外措置はありそうですが、これを施行までの数年で実現するのはなかなか大変ですね。