「限定正社員」に慎重意見 公開討論会で政府や労使

 政府の規制改革推進会議は13日、働く場所や時間、業務範囲をあらかじめ限る「限定正社員」の普及に向けた公開討論会を開いた。会議の民間委員は制度の悪用を防ぐために、労働条件の明示などを法律で企業に義務付けるよう求めたが、出席した労使と厚生労働省の代表はいずれも慎重な立場を示した。

 経団連は企業の負担が増える規制強化に消極的で「法改正しなくても、現状の制度を十分に周知すればいい」(輪島忍労働法制本部長)と述べた。連合は限定正社員の普及で今の正社員の待遇が下がることを懸念しており、「制度の普及はそれぞれの企業に任せるべきだ」(安永貴夫副事務局長)と法制化には慎重だった。

(2017.4.14 日本経済新聞

限定正社員とは、契約期間に定めがなく、勤務地、職務、勤務時間などに一定の制約がある勤務形態の社員を指します。限定正社員には主に勤務地限定正社員、職務限定正社員、勤務時間限定正社員(短時間正社員)の3種類があります。なお、厚生労働省では「限定」というネガティブな響きを嫌ってか、「多様な正社員」と呼ぶことが多いようです。

正社員と契約社員との違いは、本質的には契約期間に定めがあるかないかだけです。しかし、日本における正社員は、ほぼ無限定に転勤、ジョブローテーション、残業・休日出勤を受け入れる点、実質的には契約社員と大きな違いがありました。この違いこそ、正社員と非正規社員の賃金格差の根拠となってきました。

しかし、育児や介護によって勤務時間や勤務地に制約がある社員が職場の一定数を占めるようになり、正社員のような無限定な働き方でなくても、契約期間は無期である限定正社員という労働形態が徐々に浸透しつつあります。先鞭をつけたのは「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングで、2007年にフルタイムの非正規社員の約2割、5,000人を月給制で店長まで昇格可能な地域限定正社員に登用する、と発表して話題を呼びました。

引用の記事では、経団連も連合も限定正社員の法制化には慎重とのことですが、折からの人手不足で各社とも優秀な人材の囲い込みに必死ですので、限定正社員は今後ますます増えることになるでしょう。今のところ民間が先行して制度を導入していますが、今後のトラブル防止のためにも早期の法制化が待たれるところです。

脱時間給 今国会見送り 臨時国会、働き方改革と一体審議

 政府・与党は労働時間ではなく仕事の成果に給料を支払う「脱時間給制度」を盛り込んだ労働基準法改正案の今国会成立を見送る方針を固めた。7月の東京都議選を控え、与野党の対決が見込まれる同法案の審議は得策ではないと判断した。秋に予定する臨時国会で、残業時間の上限規制などを含む「働き方改革関連法案」と一体で審議し、成立をめざす戦略だ。

(2017.4.12 日本経済新聞) 

「脱時間給」を盛り込んだ労基法改正案は、2015年4月に国会に提出されています。しかし野党が「残業代ゼロ法案」などど批判、与党も衝突回避をして、審議は2年間も据え置きになったままです。

脱時間給の対象は年収1075万円以上の専門職です。1000万円以上の給与所得がある人は全体の4%弱と言われ、この中にはもともと残業代の出ない取締役や管理監督職が多く含まれているので、直接的に影響が出る人の割合はさらに少ないとみられています。このような、所得的にはかなり恵まれており、自己裁量も高い特殊なケースの社員の働き方を、労働時間という概念で一括りにするのが実態に合うのかは疑問が残るところです。

多様な働き方を推進するのであれば、労働者にとってメリットのある施策ばかりでなく、デメリットのある施策についても議論を尽くすべきです。労基法改正案は遅々として審議が進まず、働き方改革推進の妨げになっています。この問題を政争の具にするような愚かな行為は与野党ともに控えるべきではないでしょうか。

人口、2053年に1億人割れ 厚労省推計 50年後8808万人 働き手4割減

 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は10日、長期的な日本の人口を予測した「将来推計人口」を公表した。1人の女性が生む子供の数が今と変わらない場合、人口は2053年に1億人を割り、65年には15年比3割減の8808万人になる。働き手の世代は4割減とさらに大きく減る見通しだ。政府が経済成長に必要とする1億人を保つのは難しく、政策は大きな見直しを迫られる。

(2017.4.11 日本経済新聞

少子・高齢化については、以前から報道されていたとおりですが、社会保障・人口問題研究所の発表では、15~64歳の生産年齢人口は現在の7728万人から50年後には4529万人と4割減になる見通しです。

生産年齢人口減少の対策の1つとして、政府は数年前から女性や高齢者の社会参加を促進する政策を採ってきましたが、ますます進展する少子化の前では焼け石に水といった印象は拭えません。

人口減少対策としては、さらに生産性の向上があげられます。ただ、日本生産性本部の発表によると、2015年の日本の労働生産性は、1時間当たり42.1ドル。これはアメリカの6割強の水準で、順位はOECD加盟35カ国中20位、主要先進7カ国の中では最下位です。この状況を打破しない限り、人口減少による経済力の低下は免れないでしょう。

留学生の不法就労を手助けした疑い 会社幹部を逮捕

 在留資格を不正に変更して中国人留学生の不法就労を手助けしたとして、警視庁組織犯罪対策1課は7日までに、日本語学校の経営会社「REIAI」(東京)幹部、豊原隆位容疑者(53)=東京都練馬区光が丘=を入管難民法違反(資格外活動ほう助)容疑で逮捕した。

 逮捕容疑は昨年11月から今年3月にかけ、中国人留学生の20代の男を社員として雇ったように偽り、在留資格を不正に変更。留学生が都内の飲食店で不法就労するのを手助けした疑い。

 同課によると、豊原容疑者は2012~16年に、同様の手口で少なくとも中国人留学生ら60人の不法就労を手助けしていた。留学生から1人当たり60万~100万円の報酬を受け取り、計約5300万円を得ていた。

(2017.4.7 日本経済新聞

今日は、中国人留学生の在留資格を不正に変更して、留学生が不法就労するのを手助けしていた経営者が逮捕というニュースです。しかも留学生からピンハネまでしていたようですので、手口は悪質です。

EUやアメリカでは、難民問題が国の代表者を決定する重要なファクターになっていますが、日本ではそれほど難民問題は顕在化していません。とはいえ、島国の日本は地続きで国境を接する国がないため、「移民」という言葉にアレルギーが強いと言われ、国も移民政策は採らないことを明言しています。

外国人の在留資格については、少し前に技能実習ビザで来日した外国人について、パスポートを取り上げたり、劣悪な労働環境で働かせたりしたことが問題となりました。不人気な移民政策を採用して労働力人口の減少を補うのか、移民政策は採らず労働力人口減少による国力低下を招くのか、日本の労働政策はいま岐路に立っています。

シャープ、賞与算定にポイント制 「信賞必罰」へ透明性

 シャープは社員の賞与を決める仕組みを刷新し、今冬から国内の全社員を対象にポイント制度を導入する。同社を傘下に収めた鴻海(ホンハイ)精密工業出身の戴正呉社長は、報酬制度に「信賞必罰」の考え方を採り入れ、2017年度の賞与は成果に応じて年1~8カ月分を支給すると表明している。成果が賞与に明確に反映することになるため、算定の透明性を保てる制度に改める。

(2017.4.5 日本経済新聞

昨年、台湾の鴻海精密工業傘下になったシャープの賞与制度改定のニュースです。ポストごとに付与するポイントの上限と下限を設定し、賞与はポイントに基づいて決定するとのことですので、従来よりも成果主義の色合いが強い制度のようです。

バブル崩壊以降、日本の大手企業もこぞって成果主義賃金制度を導入しましたが、あまりうまくいかず、現在はやや揺り戻しが起きている状況です。というのは、日本における企業と社員の関係はメンバーシップ型と呼ばれ、職務要件が明確ではない代わりに、お互いに協力しあうことで全体の完成度を高めていくやり方だからです。

シャープの新しい賞与制度は、はたして社員のモチベーションアップにつなげられるのか、今後の動向が注目されます。

関電、1.2万人に未払い 時間外賃金、2年で17億円

 関西電力は30日、2016年末までの2年間で、全従業員の半数以上にあたる1万2千人に合計で約17億円の時間外賃金を払っていなかったと発表した。関電は同日、労働基準監督署に報告する。

 関電では高浜原発1、2号機(福井県高浜町)の運転延長を巡り、原子力規制委員会の審査対応をしていた課長職の40代男性が昨年4月に自殺。男性はその後労災と認定され、同12月下旬には天満労働基準監督署から適正な労働時間の管理をするよう是正勧告を受けていた。

(2017.3.30 日本経済新聞

関西電力の時間外賃金不払いのニュースです。全従業員2万2千人のうち、半数以上の1万2,900人分が未払いとのことですので、労働時間管理が適切に行われていなかったことは明らかです。

関西電力では、高浜原発の運転延長を巡り原子力規制委員会の審査対応を担当していた40代男性が2016年4月に自殺し、後に労災認定されました。同12月には天満労基署から適正な労働時間管理を行うよう是正勧告を受けていました。

過労自殺→労災認定→超過労働の疑いで調査→労働時間の過少申告発覚→未払い残業代の支払い、という流れは電通三菱電機と全く同じです。その後両社ともに書類送検の憂き目にあったことは周知のとおりです。

今日のニュースは、労働時間管理をおろそかにすれば、結局多額の残業代を支払うことになる典型例です。中小企業では労働時間を管理していない会社も見受けられますが、働き方改革が浸透しつつある現在、労働時間の適正管理は健全な企業経営における必須条件と言えるでしょう。

働き方改革へ実行計画 政府 残業上限や同一賃金

 政府は28日、働き方改革実現会議を首相官邸で開き、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の導入を盛り込んだ実行計画をまとめた。正社員による長時間労働など戦後雇用慣行の見直しに踏み込んだ。政府は今年の国会に関連法の改正案を提出し、2019年度からの実現をめざす。ただ、生産性向上や成長底上げには力不足の面もあり、なお課題を残す。

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 (2017.3.29 日本経済新聞

 政府の進める働き方改革の実行計画が公表されました。今後、労働政策審議会で議論がなされ、労基法等の関連法令の改定を経て2019年度の実現を目指すとのことです。

 注目すべきはやはり、罰則付きの残業上限の設定です。繁忙月の残業時間の上限を「月100時間未満」とする点については、「政府が過労死を容認するのか」という批判もありますが、これまで実質青天井になっていた上限に制限を加え、違反企業にはペナルティーを課す、というのはこれまでの労基法にはなかった厳格な運用ですので、これまでの経緯を見れば画期的な改定と言えるでしょう。