電通社長を任意聴取 厚労省 違法残業、捜査終結へ

 新入女性社員が過労自殺した電通を巡る捜査で、厚生労働省は20日、同社の山本敏博社長から任意で聴取した。名古屋など3支社で労使協定の上限を超える違法な残業を社員にさせていた疑いがあると判断。来週にも法人としての電通と、3支社の幹部を労働基準法違反の疑いで書類送検する方針を固めた。昨年11月から始まった電通を巡る一連の捜査は、終結する見通しとなった。

(2017.4.21 日本経済新聞

電通の新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)が2015年12月25日に自殺をしたのは、直前に残業時間が大幅に増えたのが原因だとして、三田労働基準監督署が労災認定をした事件は、社会に大きな衝撃を与えました。

東京労働局などは2016年10月、電通の東京本社と3支社に対して任意の立ち入り調査を行った結果、複数の部署で労使協定の上限を超える違法残業の疑いが浮上。11月に強制捜査に切り替え、押収した勤務関連の資料を分析したところ、社員の出入りを記録する入退館記録と会社への申告が大幅に食い違う事実が判明しました。そして12月28日には、社員に違法な残業をさせていたとして、労働基準法違反の疑いで法人としての電通と高橋さんの当時の上司を書類送検する事態に至りました。

電通過労自殺者を出したのは今回が初めてではありません。1991年8月には、入社2年目の男性が長時間労働が原因でうつ病にかかり、自殺をしています。遺族である両親が電通に対して損害賠償を請求した訴訟で、最高裁は、長時間労働によるうつ病の発症、うつ病罹患の結果としての自殺という一連の連鎖が認められる、と判断しました。この判決は、長時間労働と従業員の過労自殺に因果関係を認めた初の最高裁判決となりました(その後の差戻審において、最終的には、会社が約1億6,800万円を支払うとの内容で和解が成立)。

世界屈指の大手広告会社によって繰り返された過労自殺事件は、皮肉にも今般の働き方改革を推進する大きな契機となりました。電通は1度目の過労自殺の際に、長時間労働体質を改めると表明していたにもかかわらず、その後もサービス残業が常態化するなど、組織的に違法行為を継続していた疑いがあり、今回の書類送検もやむなしと言えるでしょう。