高校で労働法令授業 厚労省が教職員向け冊子

 厚生労働省は労働関係法令に関する授業を高校で普及させることを目的に教職員向けの冊子を作成した。生徒がチームを組んで労働関係の法律案を作ってみたり、過労死などの労働問題を学んだりする20のモデル授業案を紹介している。働き始める前に労働関係のルールを学び、職場でトラブルに巻き込まれるのを防ぐ。

 冊子は全国の高校に配布し、公民科などの授業で活用してもらう。モデル授業の内容としては、最低賃金制度や労働組合の基本、職場でのハラスメントの問題など、働く上で必要な知識が幅広く身につくようになっている。

 具体的なモデル授業の一例としては、学生の考える力を育むために、労働関係の法律を実際に作ってみることを提案している。社会人1年目の会社員が、残業代が支払われないため上司に文句を言ったところ解雇されたというケースを想定。この会社員を守るには、どのような法律が必要かを考えることで、既存の労働関係法令の理解が深まるとしている。

(2017.5.8 日本経済新聞

私の所属する社労士会の支部でも、中高生を対象に労働法や年金制度などの出前授業を行っています。高校生になればアルバイトをする機会もあるでしょうから、労働法の基本を知っておくことは大切です。

かつては、労働法の知識は企業側だけが持っていることが多く、労働者の知識不足に付け込んで、法令違反が横行していた実態がありました。ところがネットの普及により、労働者も労働法についての知識を得ることができ、現在は人事担当者よりも一般の労働者のほうが、労働法に詳しいことも珍しくありません、とはいえ、ネット上の情報は虚実ないまぜですので、ネット上の知識だけで理論武装するのは、労使双方にとってリスクが高いでしょう。

アルバイトには有給休暇を与える必要はない、学生はフルタイムで働いても社会保険に入れない、など間違った情報も多く、企業側もそれに気づかないまま運用している例はしばしば散見されます。その意味でも、学生のうちから正しい労働法について学ぶことは有意義なことだと思います。

勤務5年超で無期雇用転換 非正規の8割、制度知らず

 非正規労働者が5年を超えて勤務すると正社員と同様に定年まで働けるようになる「無期転換ルール」について、非正規の85.7%が制度の存在や内容を知らないことが5日、人材サービス会社アイデム(東京)の調査で分かった。このルールは非正規の雇用安定を目的に来年4月に始まるが、当事者に十分浸透していない実態が浮き彫りになった。

 アイデムの担当者は「企業が周知に取り組むことも大事だが、働く人は自ら申し込まないと権利を行使できない。積極的に情報収集すべきだ」と指摘した。

 ルールは2013年4月施行の改正労働契約法に盛り込まれた。非正規労働者は同じ会社で契約更新が繰り返されて通算5年を超えた場合、本人の申し込みに基づき正社員と同じ契約更新の必要がない「無期雇用」として働けるようになる。一般的には企業の中核を担う正社員ではなく、職種や勤務地を定めた限定正社員となるケースが先行導入した企業では多い。 

(2017.5.6 日本経済新聞

2013年4月1日に施行された改正労働契約法において、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときに、労働者からの申込みによって、期間の定めのない労働契約に転換されるルール(無期転換ルール)が導入されました。有期契約労働者は全国に約1500万人といわれ、その約3割が通算5年を超えて有期労働契約を反復更新しています。無期転換ルールは、このような長期雇用の有期契約労働者の無期契約化を図り、雇用を安定化させることを目的としています。

記事によれば、非正規の85.7%が制度の存在や内容を知らないとのことですので、企業から非正規社員への無期転換ルールの周知はあまり進んでいないことがうかがえます。ただ、改正労働契約法の施行から5年を経過する来年4月頃には、無期転換についての報道が多数流れることが予想されますので、「希望すれば正社員になれる」等の誤解が生じる前に、無期転換申込権について事前に説明をすることが望ましいと言えます。

半年で休み4日「過労死」 残業が国の上限未満でも認定

 2015年に亡くなった女性会社員(当時50)について、山口労働基準監督署が労災(過労死)と認定したことがわかった。女性の残業時間の平均は国の過労死認定ライン未満だったが、死亡前の半年で4日しか休めなかったことなどを考慮した異例の認定となった。政府は残業時間の上限規制を進めているが、専門家は「休日労働規制に踏み込まない対策は不十分だ」と指摘している。

 山口県内の弁当販売会社で配送を担っていた斎藤友己(ともみ)さん=同県防府市=は15年11月、自宅で急死し、死因は心臓疾患の疑いとされた。遺族側代理人の松丸正弁護士(大阪弁護士会)によると、斎藤さんは07年から同社に勤務。タイムカードをもとに計算した死亡直前1カ月の時間外労働(残業)時間は70時間11分で、直前2~6カ月のそれぞれの平均は月あたり約71~77時間だった。

 国の過労死認定基準(時間外労働が発症前1カ月で100時間か、2~6カ月の平均で月80時間)には達しないものの、遺族側は、発症前6カ月の間に4日しか休めていなかったと主張。特に15年8月14日~11月12日は連続91日間も勤務したとして労災を申請した。山口労基署は今年2月17日、遺族側の主張を認める形で、斎藤さんの死を「過労死」と認定した。

(2017.5.5 朝日新聞デジタル)

長時間労働による死亡事故についての労災認定のニュースです。よく知られる通り、過労死認定基準は時間外労働が発症前1カ月で100時間か、2~6カ月の平均で月80時間です。この数字の根拠は、この時間数を超えた場合に健康障害と長時間労働の間に因果関係が認められるとの医学的な見地によるものです。

今回の記事でも分かるように、この過労死ラインは絶対的なものではなく、他の要因と合わせて総合的に労災か否かの判断がなされます。今回は発症前6カ月の間に4日しか休めていなかったなど休日数の少なさも労災認定の要因になったことが推測できます。

企業のリスクマネジメントの面からみると、残業時間だけを管理すれば良いのではなく、休日数など労働時間全体を適正に管理しなければ安全配慮義務違反などの責任を問われる、ということです。最近では、「健康経営」というワードが取り上げられることが多くなりました。長時間労働に依存した経営は過去のものになりつつある時代です。

 

複数職場分の労災給付 厚労省 兼業の労働者保護

 厚生労働省は労働者が仕事中のケガで働けなくなった場合に生活を支援する労災保険の給付を拡充する。今の仕組みでは複数の企業で働いていても、負傷した際に働いていた1つの企業の賃金分しか補償されない。複数の企業で得ている賃金に基づいて給付できるように制度を改める。副業や兼業といった働き方の多様化にセーフティーネットを合わせる狙いだ。

(中略)

 現在の仕組みではA社(給料月15万円)とB社(同月5万円)で働いている場合、B社での仕事中にケガをして働けなくなると労災の給付額はB社での月5万円の賃金を基に計算される。仕事を掛け持ちする人のセーフティーネットとして不十分という指摘があった。

 厚労省は複数の企業で働いている人が労災認定された場合に、複数職場の賃金の合計額に基づいて給付額を計算する方式に改める。労働政策審議会での議論を経て関係法令を改正。早ければ来年度にも新しい仕組みを始める。

 

(2017.5.3 日本経済新聞

政府の進める働き方改革には、兼業・副業などの多様な働き方の推進もあります。これに合わせる形で労災保険の仕組みが変わりそうです。

記事にある通り、現在の労災保険の制度では、業務中のケガにより休業等をした場合の給付は実際にケガをした会社での給与額を元に支給されますので、兼業をしている方がたまたま給与額の低い会社でケガをした場合には、安い給与額に基づいた低額の給付しか受けられません。

これでは所得補償の意義が薄れてしまいますので、複数の会社で働いている方については、複数会社の給与の合計額を元に給付額を算定しようというものです。これであれば、どの会社でケガをしたかにかかわらず、実際の手取り額に比例した所得補償を受けられることになり、兼業、副業を推進する働き方改革の方向性と一致します。

ただ、この案が施行されると、業務災害が起きないよう企業努力をしている会社も、社員の副業先がそうでない場合には労災給付に関与してしまう、という問題点はあります。おそらくメリット制(労災事故の発生度合いに応じて労災保険料が増減する仕組み)の適用などについてはその点の考慮はされると思いますが、賃金額や勤務状況などの証明を求められることになるでしょうから、他社の安全衛生体制の不備により余計な事務負担が増える可能性も出てくる、ということになります。

未払い残業代支払いへ エイベックス、数億円規模

 エイベックス・グループ・ホールディングスは未払いになっていた数億円規模の残業代を5月に支払うことを決めた。グループ従業員1500人の勤務状況を昨年6月から今年1月までの期間で調査したところ、支給すべき残業代を払っていないケースが発覚した

 問題を受け、今年6月から裁量労働制などを導入し、従業員が柔軟な働き方を選べるようにする。

 未払い残業代は2017年3月期の決算に計上する。今年2月以降に発生した未払いについても、必要に応じて支払う。同社は昨年12月、労働基準監督署から未払いの残業代があるとして是正勧告を受けていた。

 エイベックスでは実労働に関係なく事前に決めた時間を働いたとみなす裁量労働制や、労働者が一定の時間帯で働きやすい時間に働けるフレックスタイム制を導入する。

(2017.5.2 日本経済新聞

記事によれば、これからフレックスや裁量労働制を導入するとのことですので、企業規模を考えればずさんな時間管理と言わざるを得ません。昨年12月に労基署の是正勧告を受けるまでさしたる危機感も持たずに残業代を払わずにきたのでしょう。

昨年以降長時間労働に対しては、労基署はかなり厳しくなっているのは周知のとおりで、是正勧告を受けてから社内調査をした場合、未払い残業代の規模は経営者が思った以上に膨らんでいることがほとんどです。事前に法令に適合した制度に変更しておけば、一時的な費用は掛かりますが、未払い残業代と比べれば微々たる金額で済みます。

長時間労働に依存した企業経営は過去のものになりつつあります。どの業界であっても、きちんと時間管理をしなければ、後から高い代償を支払わされるリスクがあると言えるでしょう。

東本願寺で残業代未払い 僧侶2人に660万円

 真宗大谷派(本山・東本願寺京都市下京区)が非正規雇用で勤務していた男性僧侶2人から未払いの残業代の支払いを求められ、2013年11月~今年3月までの計約660万円を支払っていたことが26日、分かった。

 2人は全国の門徒が泊まりがけで奉仕のために訪れる東本願寺境内の研修施設の世話係。13年4月から勤務し、今年3月末に雇い止めになった。早朝出勤、深夜退勤もあり、時間外労働は多い月で計130時間に上っていた。

 きょうとユニオン(同市南区)が15年11月から団体交渉を実施。未払いだけでなく、大谷派が労働時間を把握していなかったことや、職員組合と残業代を支払わないという違法な覚書を1973年に交わしていたことが分かった。世話係に対し、40年以上残業代を支払っていなかった可能性があるという。大谷派は「信仰と仕事の両面を考慮して法令順守に努めていきたい」とコメントした。

(2017.4.27 日本経済新聞

寺社の労務管理については、2016年4月、世界遺産仁和寺の宿坊の料理長の男性が、長時間労働により精神疾患を発症したとして、未払賃金の支払いを求めた訴訟で、京都地裁が約4200万円の支払いを命じる判決がありました。精神疾患の発症前年には1年間の勤務日数が356日に及ぶなど、仁和寺のずさんな労働時間管理が明らかになりました。

今日は同じ京都の寺社である東本願寺の賃金不払いのニュースです。記事によれば、1973年に組合と残業代を支払わないという覚書を交わして以降、40年以上残業代を支払っていなかった可能性があるというのですから、初めから残業時間を管理する気もなく、一般企業であれば極めて悪質な案件です。

寺社仏閣は修行の場であり、一般の労働者とは違う意識で雇用していたのかもしれませんが、賃金を払って労働を提供してもらう以上、労基法の適用が及ぶ「労働者」に該当します。文字通り釈迦に説法かもしれませんが、そもそも仏教は弱者救済の宗教のはずで、賃金不払いなど仏の道に反する行為ではないのでしょうか。

日本人はすでに先進国イチの怠け者で、おまけに労働生産性も最低な件

 「働きすぎは悪」「仕事よりコンプライアンス」――日本全体がそんな方向に進んでいる。しかし、本当にそれでいいのか。誰も頑張らないし踏ん張らない、そんな国に未来があるのか。

 モーレツがそんなに悪いのか?

 興味深い数字がある。『データブック国際労働比較2016』を見ると、'14年の週労働時間(製造業)で日本人はG7(先進7ヵ国)の中で労働時間がかなり短いほうなのだ。

 厚生労働省が調べた日本の週労働時間(製造業)は37.7時間。調査対象に各国でバラツキがあるため、一概には言えないが、米国の42時間や英国の41.4時間、ドイツの40時間より少なく、フランスの37.8時間、カナダの37.1時間と変わらない水準なのである。

 日本人がどんどん働かなくなっている。

 バブル直後には2000時間を超えていた年間の総実労働時間は少なくなり続け、'14年には1729時間にまで減少している(OECD調べ)。

(中略)

 かつての日本人たちが寝食を忘れて働いた末に今の日本の繁栄がある。それにあぐらをかいて、「これからは一生懸命働かないようにしよう」などと言っていれば、あっというまに三流国に転落する。

 政府の言うことに踊らされて、やれプレミアムフライデーだ、ノー残業デーだなどと浮かれる前にやるべきことがある。

 働かざる者食うべからず。

 この言葉を忘れると、日本人の末路は本当に哀れなものになるだろう。

(「週刊現代」2017年4月29日号より)

これはまた時代錯誤な記事ですね。。。1つずつ中身を検証してみましょう。

まず「データブック国際労働比較2016」の週労働時間のデータを用いて、「日本人はG7の中で労働時間がかなり短い」と主張しています。それでは、同じ「データブック国際労働比較2016」から年間の労働時間をみてみましょう。2014年の日本の平均年間総実労働時間は1,729時間。アメリカは1,789時間と日本より長いですが、フランスは1,473時間、ドイツは1,371時間と日本より遥かに短いのです。

長期休暇が制度化されているEU諸国に比べて、日本は有給休暇の取得率が5割未満ですから、年間の労働日数がそもそも違います。その差を無視して、1週間の労働時間だけを取り上げて「日本の労働時間はドイツより少なく、フランスと変わらない水準」などと主張することには、悪意すら感じます。

さらに「バブル直後には2,000時間を超えていた年間の総実労働時間は少なくなり続け、'14年には1,729時間にまで減少している」とのデータを取り上げて「日本人がどんどん働かなくなっている」と主張しています。確かに、毎月勤労統計調査の年間総実労働時間をみると、パートタイムを含む労働者では1993年の1,920時間から2015年の1,734時間まで減少していますが、パートタイムを除いた一般労働者では、1993年の2,045時間から2015年の2,026時間とほぼ横ばいです。

バブル以降、1人当たりの平均年間労働時間が減少したのは、短時間労働を行うパートタイム労働者の比率が増えたことが主な原因ということは、労務管理に携わる者の間では常識です。年間総実労働時間の減少というデータは、①格差拡大を助長する非正規比率の増加、②改善されない正社員の長時間労働体質という2つの問題をはらんでいるにもかかわらず、それを「日本人がどんどん働かなくなっている」との主張に用いるとは呆れるばかりです。

日本にはいまだに長時間労働信仰が根強く残っているんですね。記事には「かつての日本人たちが寝食を忘れて働いた末に今の日本の繁栄がある」と書いてありますが、そのような働き方こそが少子化の原因であり、50年後、日本の人口は約3割減るものと見込まれています。寝食を忘れ、家庭を犠牲にして働くことはむしろ亡国への道です。日本企業の経営者や管理職からこのような時代錯誤の意識が一掃されない限り、日本の長時間労働体質はいつまでたっても変わらないのでしょう。