「てるみくらぶ」新卒内定者50人「先見えない」破産

 破産手続きの開始が決まった旅行会社「てるみくらぶ」が、社員が80人程度しかいないにもかかわらず、50人もの内定者を出していたことが分かりました。

 てるみくらぶの内定者:「だいたい50人ぐらいはきのうの説明会に来ていたので、(内定者は)50人ぐらいはいます」「(破産について)あと5日後には社会人になるんだという気持ちで準備を進めていたし、そういう思いでいたのでこれから先どうしたらいいのか先が見えない状態で、どうしたらいいのか分からない気持ちでいっぱいでした」

 てるみくらぶは、来月1日に入社予定だった約50人の内定者を、27日に本社の近くに集めて説明会を開きました。山田社長が破産に至った経緯を説明し、全員の内定取り消しを通告しました。内定者のなかには、すでに地方から東京に引っ越してきて、家賃を払えない可能性がある人もいるということです。

(2017.3.28 テレ朝news)

珍しく日経新聞以外からの引用です。151億円もの負債を抱えて倒産、9万人にのぼる申込客の支払済み代金の大半が返金されない見込みなど、ここ数日世間を騒がせていたてるみくらぶですが、約50人の内定者が3月27日になって内定取り消し通知を受けた、というニュースです。

もちろん、楽しみにしていた旅行ができなくなった方や、渡航先でホテルをキャンセルされた方も大変お気の毒ですが、あと数日で入社予定の会社に、突然内定取り消しを告げられた学生の心中は察するに余りあります。

法律的に言うと、内定は「解約権留保付労働契約」を締結しているとされ、内定者の地位は、試用期間中の地位と基本的に同じものとみなされます。つまり、内定取り消しは解雇と同様に考えるべきであり、企業側の都合で一方的に内定を取り消すことはできません。とは言っても会社が破産してしまった以上、社員としての地位を求めることに実質意味はなく、内定者は他の就職先を探さざるを得ないことになります。

新規に設立された企業が10年以上存続する確率は1割にも満たないと言われますので、企業が倒産してしまうこと自体にはある程度やむを得ない面はありますが、倒産するにしても、顧客や取引先や社員にできるだけ迷惑を掛けないように配慮するのは経営者として最低限のマナーです。ところが、てるみくらぶは破産直前までツアー客募集の新聞広告を出し、さらに社員が80人程度しかいないにもかかわらず、約50人の学生に内定を出していたのです。

経営状況が良くないことは経営陣もかなり前から認識していたようですので、新卒採用を取りやめたり、もっと早い時期に内定取り消しを出せば、入社直前になって突然就職先がなくなるような事態は避けられたはずです。前途ある若者の希望を奪い取った経営陣の罪は重いと言わざるを得ません。

残業上限「100時間未満」 「妥当」最多の43%「もっと短く」37%

 日本経済新聞世論調査で、政府が年内提出を目指す労働基準法改正案で残業時間の上限を繁忙月は「100時間未満」とする方針について「妥当」が43%で最も多かった。「もっと短い方がよい」は37%、「もっと長い方がよい」は11%だった。

 男性は「妥当」が48%と「もっと短く」の33%を上回った。女性は「もっと短く」が42%で「妥当」の37%より多かった。

 残業時間の上限を法律で規制することで実際の残業時間がどうなると思うか聞くと「変わらないと思う」が65%を占めた。「減ると思う」が24%、「増えると思う」が6%だった。

(2017.3.27 日本経済新聞) 

先月、残業時間の上限についての政府案のニュースを取り上げましたが、

残業上限 月60時間 政府提示、労使受け入れへ - 流浪の社労士ブログ

1ヵ月の上限は60時間、年間の上限は720時間を原則とし、繁忙期は1ヵ月のみ100時間未満を上限とし、2ヵ月平均で80時間を超えないようにする、という方針で労使の合意が得られました。

この繁忙月の上限「100時間未満」について、日経の世論調査では「妥当」が43%で最も多かった、というのが今日のニュースです。調査の対象は主に働く方でしょうから、労働者側から見ても妥当という意見が最多なのであれば、1ヵ月「100時間未満」という上限は概ね適正なラインと言えるのでしょう。

一方、「残業時間の上限を法律で規制することで実際の残業時間がどうなると思うか」という質問に対しては、「変わらないと思う」が65%を占める結果となりました。法規制をしても実態は変わらないという意見は、これまでの労働法の実効性の乏しさを反映していると言えそうです。確かに、労基署の調査実施率が全事業所の3%程度という現状では、いくら法改正で規制を強化しても実態はなかなか変わらないでしょう。法規制の実効性を高めるために官民ともに知恵を絞る必要がありそうです。

正社員との賃金差「不合理でない」 メトロ契約社員訴訟判決

 東京メトロの駅売店で働く契約社員ら女性4人が正社員との賃金格差が不当として、勤務先のメトロ子会社に差額分など計約4500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が23日、東京地裁であった。吉田徹裁判長は「給与や賞与、住宅手当などの格差は不合理ではない」として請求の大半を棄却した。

 判決理由で吉田裁判長は、売店で働く正社員は一部に限られ、契約社員とは業務内容や責任の程度、配置転換の有無が異なると指摘。「長期雇用を前提に、正社員の賃金や福利厚生を手厚くする会社の判断には合理性がある」と述べた。

 正社員との残業代の差は不合理と判断し、原告1人に約4千円を支払うよう会社側に命じた。

(2017.3.24 日本経済新聞

この事件は、2013年4月に改正施行された労働契約法の解釈を巡る裁判です。同法20条では、契約社員の労働条件について、有期契約であることを理由として正社員との間に違いがある場合には、①業務の内容及び責任の程度、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して不合理なものであってはならない、としています。

労働契約法20条については、ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件など、昨年関連する重要判例が相次いで出ました。ハマキョウレックス事件は、一審では実費補てんである通勤手当の格差のみ不合理とされましたが、控訴審では、通勤手当のほか無事故手当、作業手当、給食手当の不支給も不合理と認めるなど、司法の判断も分かれました。

昨年末には同一労働同一賃金ガイドライン案が公表されるなど、非正規社員の処遇について世間の関心が高まる中、メトロコマース事件の判決が出ました。少額の残業手当を除き、基本給、賞与、退職金、住宅手当などの格差は不合理でない、とされました。

誤解の多い点ですが、そもそも労働契約法20条は同一労働同一賃金を定めた条文ではありません。上記①~③を考慮した結果、不合理でなければ正社員と契約社員で労働条件に差があることは認められています。今回の判決は、正社員と契約社員との労働条件の格差について、企業が長期雇用を前提とした正社員に対する福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図ることには合理性があると判断されました。

ただ、同一労働同一賃金ガイドライン案では、「基本給について、労働者の職業経験・能力に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の職業経験・能力を蓄積している有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、職業経験・能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。 」としており、今後この方針に基づいて労働契約法などが改正されれば、その後に同様の事件が起きた際には、また違った結果となることも考えられます。

有期労働契約の無期転換ルールの本格実施まであと1年となり、非正規社員を「雇用の調整弁」とする考え方は既に過去のものです。今回の判決は会社側勝訴の結果となりましたが、非正規社員の処遇については、従来の方法を見直さなければこれからの時代には対応できません。正社員と非正規社員との処遇の差について、明確な根拠を設けていない企業は、いつ紛争の当事者になってもおかしくないと言えるでしょう。

労基署業務 委託に難色 厚労省「複雑な仕事」 規制改革会議

 政府の規制改革推進会議は16日、企業に立ち入り検査する労働基準監督署の業務の一部を民間に委託する検討会の初会合を開いた。民間委員は「監督官の不足で監督業務が不十分」と主張したが、所管の厚生労働省は「事業所の違法行為を見つけるのは複雑な仕事だ」などと難色を示した。同会議は6月の答申に委託解禁を盛る方針だが、調整が難航する可能性もある。

 会議では、民間委員が「監督が放置されている事業所に民間人が行くなど官民は補完関係にある」と指摘。「民間人が書類閲覧を拒否された事業所に国の監督官が集中的に行けば効率も良くなる」と強調した。これに厚労省は「監督官が来るまでに証拠書類を処分されたらどうするのか」などと慎重な姿勢を示した。

(2017.3.17 日本経済新聞

先日、規制改革推進会議で労働基準監督官の人手不足を補うため、労基署業務の一部の民間委託を検討する、というニュースを取り上げました。

労基署業務を民間委託 立ち入り検査 規制改革会議が検討 - 流浪の社労士ブログ

委託先は社会保険労務士を想定しているとのことで、私の周りでも、社労士の業務拡大かとかなりの話題になりました。

2016年4月から、全国の労働基準監督署による重点監督の対象が「月100時間超の残業が疑われる全ての事業場」から「月80時間超の残業が疑われる全ての事業場」に拡大されました。これにより、年間での監督対象数はそれまでの約1万事業場から約2万事業場に増加しました。しかし、監督官の人手不足は顕著で、全事業所に対する労基署の監督の実施率は3~4%にとどまっています。

監督官の人手不足を補完するため、労基署業務を民間委託することは有力な解決案と思われましたが、さっそく厚労省から横ヤリが入りました。「事業所の違法行為を見つけるのは複雑な仕事だ」などと難色を示したとのことです。

企業も労基署の調査にすんなり応じるはずがなく、違法行為をしていればそれを隠ぺいしようとする意図が働きますので、違法行為を見つけるのは困難だとする厚労省の意見はごもっともです。ただ、そのような企業の意図を良くも悪くも熟知しているのは、われわれ社労士です。

労基署は36協定や「長時間労働の抑制のための自主点検表」などで長時間労働が疑われる事業所を抽出していますが、そもそも本当に悪質な企業は36協定すら提出しておらず、労働者の申告がなければ、違法行為が潜在化してしまうのが実態です。そのようなブラック企業を駆逐するためには、労基署の監督の絶対数の増加は欠かせません。厚労省は働き方改革を推進する立場のはずですので、既存の手法にこだわらず、もう少し柔軟な発想があっても良いのではないでしょうか。

パナソニック書類送検 富山労働局 3人に違法残業疑い

 大手電機メーカーのパナソニック富山県内の工場に勤務する従業員に労使協定の上限を超える時間外労働をさせていたとして、厚生労働省富山労働局の砺波労働基準監督署(同県砺波市)は15日、労働基準法違反の疑いで、法人としての同社と工場で労務管理を担当していた幹部2人を書類送検した。(中略)

 パナソニックを巡っては、この工場に勤務していた40代の男性社員が昨年6月に亡くなり、同労基署が今年2月、長時間労働による過労が原因だとして労災認定した。同労基署は公表していないが、関係者によると、違法な時間外労働をさせられていた3人の中に過労死した社員が含まれているという。

(2017.3.16 日本経済新聞 

パナソニックについては、先日、福井県の森田工場において深夜勤務に従事していたパナソニック2次下請け会社の契約社員が過労死として労災認定された、というニュースを取り上げました。

パナソニック工場で過労死 福井、下請け従業員 - 流浪の社労士ブログ

その際に「雇用関係がないのでコメントは差し控える」というパナソニックのコメントは、リスク管理の観点からはやや危機感が足りない、と私見を述べたのですが、今日は富山県の工場での過労死に関連して、違法な時間外労働による書類送検のニュースです。

人手不足が深刻化している現在、過労死に至るような長時間労働を行わせている企業は優秀な人材を獲得することができません。パナソニック松下電器)の創業者、松下幸之助は「社員は家族」として、社員を大事にしたことで有名ですが、いまのパナソニックは偉大な創業者の理念を忘れてしまったのでしょうか。

働きやすさで選びたい  就活生、過労問題に敏感 企業、説明会で改革PR

 2018年卒の大学生の就職活動が本格化して約2週間が過ぎた。長時間労働の見直しに注目が集まる中、学生の企業選びも企業規模や給与から、残業の少なさや育児休暇の取りやすさなどの「働きやすさ」に移りつつある。売り手市場でもあり、企業側も独自の勤務制度や働き方改革の成果を強調。会社説明会では職場環境の良さや福利厚生の充実ぶりをPRする企業が目立っている。

(2017.3.14 日本経済新聞

近年、若者の働き方に対する意識も変わりつつあります。日本生産性本部の「2016年度 新入社員 春の意識調査」によると、「残業は多いが自分のキャリアや専門能力が高められる職場」と「残業が少なく、平日でも自分の時間を持て、趣味などに時間が使える職場」のどちらを好むかとの問いに、残業が少ない職場を好むと回答した割合が前年比 7.5 ポイント増の 74.7%となり、過去最高となりました。

今の若者は賃金よりも働きやすさを重視する、というこの数年のトレンドは、私も実務を通して実感しています。折からの人材不足で、賃上げによって人材を確保しようとする経営者は多いのですが、この若者の意識の変化を見誤ると、かえって優秀な人材を遠ざける結果となります。逆に言えば、労働者のニーズに適応して働きやすい職場を構築すれば、人件費を掛けずとも優秀な人材は集まる、ということです。

 

同一賃金、賞与も焦点 「パートに支給」なお4割どまり

 同じ仕事に同じ賃金を支払う「同一労働同一賃金」の議論で、賞与が新たな焦点になっている。政府は昨年末出した指針で、非正規社員にも賞与を支払うよう言及。連合も今回の春季労使交渉で賞与も含めた非正規の処遇改善を求めた。主に正社員が支給対象の賞与が格差を広げる要因との見方からだが実現のハードルは高い。(中略)

 政府は「同一労働同一賃金」の実現をめざすため、正社員と非正規の格差縮小を掲げている。労働政策研究・研修機構(JILPT)によると、日本の非正規の所定内給与は正社員の56.6%。これを欧州並みの7~8割まで上げる目標だ。

(2017.3.13 日本経済新聞

昨年末に公表された「同一労働同一賃金ガイドライン案」では、非正規社員の賞与について以下のように明記しています。

「賞与について、会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。」

最近の賞与は、かつての「夏1.5ヵ月、冬1.5ヵ月」のような固定的な支給ではなく、多かれ少なかれ会社業績や個人成績と連動しています。ガイドライン案では、このような形態で賞与を支給する会社は、契約社員やパート社員にも正社員と同様に貢献に応じて賞与を支給しなければならない、としています。

このガイドライン案には法的拘束力はありませんが、近い将来この案がそのまま法令に反映されれば、パート社員の比率が高い飲食業や小売業にはかなり大きな影響がありそうです。

いまや働く人の4割近くを非正規社員が占めています。社員区分によって賃金格差が固定化されている現状はテコ入れしなければいけませんが、企業の人件費も限られていますので、非正規社員の賃金を改善するためにはその分正社員の賃金を下げなければいけない理屈になります。この「聖域」に手をつけることには労組などは猛反対するでしょう。このような「パイの奪い合い」を避けるためにも、生産性向上が不可欠だとして政府は働き方改革を推進しています。われわれ社労士もこのような政労使の動きを注視していく必要があります。