パナソニック書類送検 富山労働局 3人に違法残業疑い

 大手電機メーカーのパナソニック富山県内の工場に勤務する従業員に労使協定の上限を超える時間外労働をさせていたとして、厚生労働省富山労働局の砺波労働基準監督署(同県砺波市)は15日、労働基準法違反の疑いで、法人としての同社と工場で労務管理を担当していた幹部2人を書類送検した。(中略)

 パナソニックを巡っては、この工場に勤務していた40代の男性社員が昨年6月に亡くなり、同労基署が今年2月、長時間労働による過労が原因だとして労災認定した。同労基署は公表していないが、関係者によると、違法な時間外労働をさせられていた3人の中に過労死した社員が含まれているという。

(2017.3.16 日本経済新聞 

パナソニックについては、先日、福井県の森田工場において深夜勤務に従事していたパナソニック2次下請け会社の契約社員が過労死として労災認定された、というニュースを取り上げました。

パナソニック工場で過労死 福井、下請け従業員 - 流浪の社労士ブログ

その際に「雇用関係がないのでコメントは差し控える」というパナソニックのコメントは、リスク管理の観点からはやや危機感が足りない、と私見を述べたのですが、今日は富山県の工場での過労死に関連して、違法な時間外労働による書類送検のニュースです。

人手不足が深刻化している現在、過労死に至るような長時間労働を行わせている企業は優秀な人材を獲得することができません。パナソニック松下電器)の創業者、松下幸之助は「社員は家族」として、社員を大事にしたことで有名ですが、いまのパナソニックは偉大な創業者の理念を忘れてしまったのでしょうか。

働きやすさで選びたい  就活生、過労問題に敏感 企業、説明会で改革PR

 2018年卒の大学生の就職活動が本格化して約2週間が過ぎた。長時間労働の見直しに注目が集まる中、学生の企業選びも企業規模や給与から、残業の少なさや育児休暇の取りやすさなどの「働きやすさ」に移りつつある。売り手市場でもあり、企業側も独自の勤務制度や働き方改革の成果を強調。会社説明会では職場環境の良さや福利厚生の充実ぶりをPRする企業が目立っている。

(2017.3.14 日本経済新聞

近年、若者の働き方に対する意識も変わりつつあります。日本生産性本部の「2016年度 新入社員 春の意識調査」によると、「残業は多いが自分のキャリアや専門能力が高められる職場」と「残業が少なく、平日でも自分の時間を持て、趣味などに時間が使える職場」のどちらを好むかとの問いに、残業が少ない職場を好むと回答した割合が前年比 7.5 ポイント増の 74.7%となり、過去最高となりました。

今の若者は賃金よりも働きやすさを重視する、というこの数年のトレンドは、私も実務を通して実感しています。折からの人材不足で、賃上げによって人材を確保しようとする経営者は多いのですが、この若者の意識の変化を見誤ると、かえって優秀な人材を遠ざける結果となります。逆に言えば、労働者のニーズに適応して働きやすい職場を構築すれば、人件費を掛けずとも優秀な人材は集まる、ということです。

 

同一賃金、賞与も焦点 「パートに支給」なお4割どまり

 同じ仕事に同じ賃金を支払う「同一労働同一賃金」の議論で、賞与が新たな焦点になっている。政府は昨年末出した指針で、非正規社員にも賞与を支払うよう言及。連合も今回の春季労使交渉で賞与も含めた非正規の処遇改善を求めた。主に正社員が支給対象の賞与が格差を広げる要因との見方からだが実現のハードルは高い。(中略)

 政府は「同一労働同一賃金」の実現をめざすため、正社員と非正規の格差縮小を掲げている。労働政策研究・研修機構(JILPT)によると、日本の非正規の所定内給与は正社員の56.6%。これを欧州並みの7~8割まで上げる目標だ。

(2017.3.13 日本経済新聞

昨年末に公表された「同一労働同一賃金ガイドライン案」では、非正規社員の賞与について以下のように明記しています。

「賞与について、会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。」

最近の賞与は、かつての「夏1.5ヵ月、冬1.5ヵ月」のような固定的な支給ではなく、多かれ少なかれ会社業績や個人成績と連動しています。ガイドライン案では、このような形態で賞与を支給する会社は、契約社員やパート社員にも正社員と同様に貢献に応じて賞与を支給しなければならない、としています。

このガイドライン案には法的拘束力はありませんが、近い将来この案がそのまま法令に反映されれば、パート社員の比率が高い飲食業や小売業にはかなり大きな影響がありそうです。

いまや働く人の4割近くを非正規社員が占めています。社員区分によって賃金格差が固定化されている現状はテコ入れしなければいけませんが、企業の人件費も限られていますので、非正規社員の賃金を改善するためにはその分正社員の賃金を下げなければいけない理屈になります。この「聖域」に手をつけることには労組などは猛反対するでしょう。このような「パイの奪い合い」を避けるためにも、生産性向上が不可欠だとして政府は働き方改革を推進しています。われわれ社労士もこのような政労使の動きを注視していく必要があります。

インターバル 法律に明記 残業上限、調整大詰め

 経団連と連合が交渉中の残業時間の上限規制に関する労使合意案がわかった。退社から出社まで一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」の普及に向けて企業が努力するよう、法律に明記する。経団連と連合が「月100時間」で大筋合意している繁忙期の残業時間の上限をめぐっては、細部で溝が残っており、大詰めの調整を続けている。

 

 労使合意案のポイント

  • 勤務間インターバル制度を努力義務化
  • 労使は上限時間までの残業時間設定回避へ努力
  • 労使でパワハラ防止などを目的とした検討の場設置
  • メンタルヘルス対策など過労防止策強化

(2017.3.10 日本経済新聞

残業時間の上限規制に関する論議が大詰めを迎えています。当初は繁忙期の残業時間の上限を月100時間とする案に強硬に反対していた連合も、大筋では合意に達し、バーターとしてインターバル制度の努力義務化などの提案があったようです。

これは全体としては良い方向に向かっていると言えるでしょう。長時間労働の是正そのものについては、いまや労使ともにその必要性は感じています。にもかかわらず100時間以下か未満かなどの細部にこだわって議論が停滞するのは労使双方が望むところではないでしょう。

インターバル制度のほか、パワハラ防止やメンタルヘルス対策を合意案に盛り込んだ点も評価できるところです。人材不足の昨今、パワハラやメンタル不調で限られた人材を失うことは企業にとって死活問題です。最近のヤマト運輸の例をあげるまでもなく、お客様と同じように社員を大事にする時代は既に来ています。

不当解雇の金銭解決制度 導入へ方向性見えず 厚労省、原案を提示

 裁判で不当とされた解雇の金銭解決制度の導入を巡る有識者会議の議論が、打開の糸口を見いだせないでいる。厚生労働省が制度の原案を示した3日の会議でも方向性は見えないまま。解雇を助長するとして連合は反対姿勢を崩さず、経済界も積極的に実現をめざす動きは今のところ乏しい。

 裁判で不当な解雇と認められた場合、解雇された人が望めば職場復帰を諦める代わりに会社から補償金を受け取れるようにするのが「不当解雇の金銭解決」だ。

(2017.3.8 日本経済新聞

不当解雇の金銭解決は、EU諸国など海外ではすでに制度化されています。日本でも10年以上前から検討されていますが、解雇を助長するなどとして連合が強固に反対する姿勢を崩さないまま、制度導入まで至らない状況です。

先日厚生労働省の示した原案では、従来のあっせん・労働審判・地位確認訴訟に加えて、労働者が職場復帰ではなく金銭救済を希望する場合に、地位確認にこだわらない金銭的解決という、新しい選択肢を設けようというものです。なお、地位確認訴訟とは、労働者が解雇無効を訴えて職場復帰を求める訴訟です。

解雇によって労使紛争にまで至っている場合には、多かれ少なかれ会社と労働者との間に感情的な対立が生まれているのが通常です。そのような場合に職場復帰にこだわるのは労使ともにあまりメリットがなく、初めから金銭的解決という選択肢が増えるのは会社側にとってもメリットがあるのではないでしょうか。

ITの進展等に伴い産業構造の変化は今後加速度を増すことが予想されます。一方、労働力人口は大幅な減少が見込まれており、限られた労働力を社会的ニーズの高い産業へ集中させるためには、柔軟な労働移動が可能な環境が求められます。解雇の金銭解決はその一助となるものであり、労組が主張するようなデメリットばかりの制度ではないはずです。今後の議論によってより良い制度ができることが期待されます。

労基署業務を民間委託 立ち入り検査 規制改革会議が検討

 政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大教授)は、長時間労働などの監視を強めるため、企業に立ち入り検査する労働基準監督署の業務の一部の民間委託を検討する。各地の労基署は人手不足で監督の目が行き届いていないとの指摘がある。委託先は社会保険労務士を想定、主要国に比べて見劣りする監視体制を強化して働き方改革を後押しする。(中略)

 政府は年内にも労働基準法を改正し、企業の残業時間の上限を「月平均60時間」として違反企業には罰則を科す方針。監督官不足が足かせになりかねないため、社労士を活用して監視体制を強め、働き方改革の進展につなげる。

(2017.3.7 日本経済新聞

労働基準監督官の絶対数が不足していることは以前から指摘されていました。全国の事業場数は約430万と言われていますが、これに対して監督官は約4千人。単純平均で1人あたり1,000社以上を担当しなければいけないので、当然全ての事業場に手が回るはずがなく、監督の実施率は3~4%にとどまっています。

この監督官不足を社労士の活用で補うというのが、今日のニュースです。我々社労士にとってはビジネスチャンスなのかもしれませんが、公益的な観点による考察も必要になるでしょう。監督担当が社労士と知れば、企業側が手心を加えるよう求めたりしないでしょうか。また、監督を担当する社労士の知識・経験が浅い場合に、企業の違法行為を見抜くことができるのでしょうか。実際の監督業務がどのように運用されるのか、今後の議論が注目されるところです。

 

ヤマト、未払い残業代支給 7.6万人調査へ 数百億円規模か

 ヤマトホールディングス(HD)がグループ会社の約7万6000人の社員を対象にサービス残業の実態を調べ、未払い分を支給する方針を固めたことが4日分かった。人手不足でサービス残業が常態化しているとみられ、支払総額は数百億円に上る可能性もある。過去の未払い分を精算したうえで、抜本的な働き方改革に取り組む。(中略)

 ヤマト運輸では主にトラック運転手に配備している携帯端末の電源が入っている時間を計り、運転手から自己申告される休憩時間を差し引いて労働時間を計算している。電源を切ったまま営業所内で荷物の仕分け作業をしたり、忙しくて休憩が取れなくても休んだとしたりすることがある。

(2017.3.4 日本経済新聞

このところヤマト運輸に関するニュースが続いていますね。先日は労働組合が宅配便の荷受量の抑制を求めた記事を取り上げましたが、

ヤマト、宅配総量抑制へ 人手不足、労使で交渉 - 流浪の社労士ブログ

本日は未払い残業代支給のニュースです。

記事によれば、ヤマト運輸ではドライバーの携帯端末の電源がオンになっている時間から、自己申告の休憩時間を差し引いて労働時間を把握しているとのこと。労基署等の調査においては、特に労働者からサービス残業の訴えがあったようなケースでは、このような労働時間把握方法は、実際の勤務時間との乖離がないかを詳しく調べられます。そして、管理監督者の現認等がなく自己申告に任せている場合は、実際の勤務時間と乖離していることが多いのも事実です。

ヤマト運輸も、まずは未払い残業代を精算して身綺麗にしてから総量規制に着手する、といったところでしょうか。総量規制の過程では昼、夜の時間帯指定配達の見直しなど、一部サービスの廃止も検討されているようですので、働き方改革の波はサービス重視で物流業界の盟主となったヤマト運輸にも着実に押し寄せているようです。