残業「月60時間」へ着手 例外業種が焦点に

 政府は1日、首相官邸で「働き方改革実現会議」を開き、長時間労働是正に向けた議論を始めた。残業上限を月平均60時間、年間計720時間までとする政府案に沿って意見集約を急ぐ。対象は原則、全業種。安倍晋三首相は会議で「長時間労働は構造的な問題で、企業文化や取引慣行を見直すことも必要だ」と指摘した。政府は年内に労働基準法改正案を国会に提出し、早ければ2019年度の施行を目指す。

 この日の会議は各委員からの意見表明が中心で、1カ月の残業上限を平均60時間、年間計720時間までとした政府原案は14日の次回会議で示す。企業の繁閑に柔軟に対応できるようにするため、単月なら100時間、その翌月と合わせた2カ月平均では80時間までなら残業を認める方針だ。

(2017.2.2 日本経済新聞

 労働基準法は、①使用者は1週間に40時間を超えて労働させてはならない、②使用者は1日について8時間を超えて労働させてはならないことを大原則としています。これには例外があり、過半数労働組合または過半数代表者と書面により協定し、労働基準監督署に届け出た場合には、1ヵ月45時間、1年360時間を上限として時間外労働をさせることができます。

この「36協定」にはさらに例外があり、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、特別条項付き協定を結べば、限度時間を超える時間を延長時間とすることができます。この特別条項における「特別の事情」は、臨時的なものに限られ、具体的には、一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要があること、全体として1年の半分を超えないことが見込まれることが要件ですが、この特別条項によって、実質的に残業時間が青天井になっており、長時間労働を助長しているとの批判が多いのも事実です。

現在、実質青天井になっている特別条項による延長時間に「月60時間」の上限を設けるという引用の記事ですが、我々社労士にとってはかなり大きなニュースです。おそらく社労士が関与する企業の36協定の多くは特別条項が設定され、年に6回までであれば、月45時間を超える残業ができるようにしていると思います。

もしこの特別条項を設定していなければ、繁忙期の月45時間超の残業が労基法違反になってしまいますので、コンプライアンス上、特別条項は当然のように設定してきました。ただ、このところの長時間労働是正の風潮で、過労死レベルと言われる月80時間程度の規制は時代の流れでやむなしと思っていたら、それを下回る60時間での政府案。多少の例外措置はありそうですが、これを施行までの数年で実現するのはなかなか大変ですね。

 

HIS、違法残業の疑い 東京労働局、書類送検へ

旅行会社大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が、東京都内の複数の店舗で従業員に労使協定の上限を超える残業をさせたとして、東京労働局は31日、労働基準法違反の疑いで法人としての同社と労務管理をしていた複数の幹部社員を近く書類送検する方針を固めた。

 厚生労働省が2015年4月に東京と大阪の両労働局に設置した「過重労働撲滅特別対策班」(通称かとく)が昨年夏、同社に対して強制捜査に入った。押収した労務関係資料を分析するなどした結果、都内の複数の店舗で違法に残業をさせた疑いが強まったという。

 関係者によると、同社は過去に違法な残業を従業員にさせたとして、複数回の是正勧告を受けているという。是正勧告を受けながらも改善がみられないことから、東京労働局は法人としての同社に加え、労務管理担当の複数の幹部社員も書類送検する方針を固めた。

(2017.2.1 日本経済新聞

電通三菱電機など、過重労働で大手企業が書類送検という報道を目にする機会が多くなりました。これは、労働基準監督署の監督指導の比重が現場の安全管理からオフィスの長時間労働にシフトしていることを意味します。

昨年4月から全国の労基署による重点監督の対象が、「月100時間超の残業が疑われる全ての事業場」から「月80時間超の残業が疑われる全ての事業場」に拡大され、これにより、年間での監督対象数はこれまでの約1万事業場から約2万事業場へと倍増する見込みとなっています。

また、企業本社への監督指導、労働局の行う広域捜査活動を迅速かつ的確に実施できるよう、厚生労働省に「過重労働撲滅特別対策班」(本省かとく)が新設されました。さらに、全国47の労働局に「過重労働特別監督監理官」(かとく監理官)を1名ずつ配置し、長時間労働に関する監督指導等を専門に担当することとしています。

大企業を中心に、長時間労働対策は着々と進んでいます。これまでのように長時間労働に依存した体質から脱却できない企業には容赦なく労基のメスが入る時代になったと言えるでしょう。

金銭払い解雇 導入争点 労働者側は助長懸念

 厚生労働省有識者検討会は30日、裁判で不当とされた解雇を職場復帰でなくお金で救済する「金銭解決制度」の導入に向けた本格的な議論を始めた。企業側からも制度の利用を申し込めるかどうかや、解決金の額などが主な争点となる。厚労省は議論を十分に重ねた上で結論をまとめる考えだが、解雇を助長するとして連合など労働者側は激しく反発している。

 30日の検討会では、厚労省が新制度について複数の検討事項を示した。一つが労働者が求めた場合だけでなく、企業側がお金による解決を望んだときも仕組みを使えるようにするのかどうかだ。

 もともと今回議論されている制度は、中小・零細企業でほとんどお金を得られずに、泣き寝入り同然に解雇される労働者を救済する目的が大きい。2013年には裁判で不当とされた解雇が約200件あった。

(2017.1.31 日本経済新聞

解雇問題についての司法の形式的な争点は「地位保全」の可否です。会社の主張を認めて解雇有効とするか、社員の主張を認めて解雇無効、すなわち会社に戻すかの判断がなされます。

ただ、会社から解雇を告げられた社員が、またその職場で働きたいというケースはむしろ少数派で、解決金によって和解するケースが多く、実務的には金銭解雇はすでに浸透しています。

様々な事情があるにせよ、会社に必要がないと判断された社員をその会社に留めておくよりも、金銭的に折り合いを付けて雇用関係を終了し、新しい職場で活躍してもらったほうが、労使双方にメリットがある場合も多いのです。

金銭払い解雇について論じると、労組などは必ず「解雇を助長する」と反発するのですが、もう少し柔軟な発想も必要で、労働力人口の減少が進む中、限られた人材を有効に活用するのは社会的にも意義があるのではないでしょうか。

育休奨励、企業に促す 10月から 男性取得を後押し

 厚生労働省は育児休業をとりやすい職場の雰囲気づくりを後押しするため、企業が子どもが生まれると知っている場合は、従業員個人に育児休業を勧める努力義務を設ける。育児・介護休業法を改正し、10月から制度を始める。厚労省は育休取得を促すことで、主に男性の育児休業取得を後押ししたい考えだ。

 個別に呼びかける制度は、育児だけでなく介護休業にも適用される。従来から企業は育児・介護休業を従業員に知らせる努力義務があった。

 従業員の中には育児休業の制度を知っていても、タイミングがつかめず休みをとれない人も一定数いる。厚労省は休業制度を従業員一人ひとりに呼びかけてもらうことで、制度を活用しやすい雰囲気をつくりたい考えだ。

 政府は2020年までに男性の育休取得率を13%まで上げる目標を掲げているが、15年度の雇用均等基本調査では2.65%にとどまる。

 塩崎恭久厚生労働相は15年から省内の男性職員に育休取得を呼びかけている。14年は12.1%だった男性の育休取得率は15年には29.9%になった。厚労省は従業員への直接のよびかけが育休取得率の上昇につながるとみている。

 今回の育介法改正には、育児休業の最大2年への延長や、小学校に就学前の子どもにつかえる「育児休暇」の新設も盛り込まれている。

(2017.1.27 日本経済新聞

少子高齢化の進展に伴い、今後日本の労働力人口が減少していくことはご存知の通りです。労働力人口減少の影響は既に出ており、2016年11月の有効求人倍率(季節調整値)は、1.41倍で、東京都に限れば2.03倍の超売り手市場です。

これまで企業は、「いつでも・どこでも・なんでも」やるフルタイム社員だけを正規職員として雇用していれば良かったのですが、労働力人口減少による人材不足で、今後は育児や介護などで働き方に制約のある社員も戦力として考慮しなければならない時代になっていきます。

また、子ども1人の夫婦では、夫の休日の家事・育児時間が長くなるほど、第2子以降の生まれる割合が高くなる傾向があり、引用の記事のような男性の育児参加奨励は、少子化対策として有効な施策と言われています。

それにしても、育児・介護休業法は今年の1月に改正法が施行されたばかりで、また改正の予定なのですね。クライアントの育児・介護休業規程も変更したばかりですが、年内にまた改定があるのでしょうか・・・。

残業100時間超は産業医に報告 厚労省、企業に義務化

 厚生労働省は過労死や過労自殺を防ぐため、産業医の権限を拡大する。企業に対し、月100時間を超え残業している従業員を産業医に報告することなどを義務化。産業医が問題の多い職場を重点的に見回り、企業に是正を求めやすくする。今年度中に省令を改正、6月から運用を始める方針だ。

 電通三菱電機労働基準法違反容疑で書類送検するなど、同省は過重労働への監視を強めている。長時間労働などについての報告義務付けを通じ、企業が働き方を見直す効果も見込む。

 従業員50人以上の事業所は産業医を選任しなければならない。産業医は健康診断や面接指導を担い、職場を月1回は見回るよう定められている。

 企業に月100時間超の残業がある従業員の産業医への報告を義務化。健康診断で異常が見つかった従業員についても、月の残業時間や夜勤回数など産業医が求める情報を提供させる。

 産業医はこうした従業員が複数いる職場などの見回りを強化。把握できる情報が増え、労働時間の短縮や職場変更も提案しやすくなる。

(2017.1.25 日本経済新聞

産業医とは、企業において労働者の健康管理を行う医師で、従業員50人以上の事業場で選任が義務付けられています。

産業医の主な職務は以下の通りです。

・健康診断及び面接指導等の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
・作業環境の維持管理に関すること
・作業の管理に関すること
・労働者の健康管理に関すること
・健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること
・衛生教育に関すること

一昨年のストレスチェック制度新設に続いて、今回の長時間残業の報告義務が施行されれば、企業の労務管理においてますます産業医の存在が重視されることになりそうです。

今日は朝刊の日本電産長時間労働対策を取り上げたばかりですが、夕刊では残業100時間超の産業医への報告義務化。このところ官民ともに長時間労働対策に本腰を入れている印象です。

日本電産、残業ゼロへ1000億円投資 工場自動化や人材育成

 日本電産は2020年までに1000億円を投資して、同年に国内従業員約1万人の残業をゼロにする。最新のロボットやスーパーコンピューターを導入して製品の開発期間を短縮したり、業務の効率化につながるソフトウエアを取り入れるなどして実現する。優秀な人材確保のためには働き方を抜本的に変える必要があると判断、大型投資に踏み切る。

 工場などの生産部門と、開発や事務など間接部門に約500億円ずつ投資する。

 工場では外部委託している検査工程などを自社に取り込んだり、最新鋭の自動化設備を導入したりして作業時間を短縮する。開発部門などでも、スパコンを複数台導入して開発期間を短縮する。

 工場部門より生産性が劣る事務系社員の改革を重視する。会計や労務部門には業務の効率化につながるソフトウエアやテレビ会議システムを導入する。職場配置も見直し社員の移動にかかる時間を減らす。

 残業代がなくなる分は賞与や手当の増額で補い、年収が減らないようにする。語学や専門知識の習得にあててもらうため、教育関連の投資を従来に比べ3倍に増やす。

 日本電産は15年秋時点で本社社員平均の残業時間は月40時間あった。残業の申告を厳格化したり、会議の時間や資料を減らし残業を半減してきた。ただ「さらなる残業削減に投資は惜しまない」(永守重信会長兼社長)として決断した。

(2017.1.25 日本経済新聞

昨年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」で、働き方改革は最大のチャレンジと位置付けられ、一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題とされています。「働き方改革」の3つの柱は、①同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善、②長時間労働の是正、③高齢者の就労促進 ですが、中でも長時間労働の是正に現政権はかなり力を入れています。

この数年、大企業を中心に各社がさまざまな長時間労働対策を打ち出しています。一例をあげますと、伊藤忠商事は、22時から翌5時までの深夜勤務は全面禁止。20時から22時までの勤務は原則禁止とし、必要な場合は事前申請のうえ認めることとしました。その代わりに朝5時から8時までの早朝勤務にはインセンティブとして、深夜勤務と同等の割増賃金(150%)を支給することにしています。

ただ、資金的に余裕がある大企業だから対策を打てるんだろう、という冷ややかな意見があるのも事実です。確かに下請企業や外注先への無理な発注によって、自社の残業削減を実現しても、それは負担を他社に移転したに過ぎず、日本全体での長時間労働削減にはつながりません。

この点、ニッポン一億総活躍プランでは、「長時間労働の背景として、親事業者の下請代金法・独占禁止法違反が疑われる場合に、中小企業庁公正取引委員会に通報する制度を構築し、下請などの取引条件にも踏み込んで長時間労働を是正する仕組みを構築する。」としています。長時間労働対策というと、企業と労働者との関係がクローズアップされることが多いですが、企業間取引を公正にしなければ、実効的な長時間労働是正にはつながらないということですね。

勤務間インターバル

今朝(2017.1.23)の日本経済新聞厚生労働省の「勤務間インターバル」の公告が出ていました。その公告に載っていたQRコードのリンク先はこちら。


勤務間インターバル制度とは、終業から次の始業までに一定時間の休息を入れることで、労働者の健康安全を確保することを目的としています。例えば10時間の休息時間を定めている企業で、深夜1時まで残業をした社員は、所定の始業時刻にかかわらず、翌日は11時出社で構わない、とするものです。

EUの加盟国が遵守すべきEU労働時間指令では、24時間につき最低連続11時間の休息時間を義務付けています。日本ではそれほど普及していませんが、三菱重工(休息時間・7時間)、NEC (8時間)、KDDI(8時間)などの大企業が導入しています。

政府は働き方改革の一環として、長時間労働是正に力を入れていますが、まだあまり一般的ではない勤務間インターバルの新聞公告を見て少々驚きました。

ただ、2017年度からは「職場意識改善助成金」が拡充され、勤務間インターバル制度を導入した中小企業には、50万円を上限に対象経費の4分の3を助成する見込みとなっていますので、今年はこの制度の普及が一気に進むかもしれません。